長男修復作業
「目標を発見しました、回収します」
ガンマが意識を失って十分後、現場に到着したレイが路地裏で眠るガンマを発見した。
「はい、ご苦労様。あなたの部隊には老夫婦の回収をお願いしておいたわ、施設に搬入の後、葬儀の予定だから、それまでにこの愚弟を修理するわよ」
銜えタバコでガンマの状態を診察する白衣姿の女性、シャイン・アクトリプス。
どことなくヤクモと似た雰囲気だが、吊り上がったきつい目つきが厳しさを感じさせる。
「はいシャイン姉さん、兄さんとは仲の良い人間らしいので、兄さんも弔いたいと思います」
抑揚の無い口調は相変わらずだが、静かな寝息を立てるガンマを見て安心したようだ、少々表情が柔らかいように見えなくも無い。
「当たり前よ、起きたら自分の無力感に打ちひしがれればいいわ、自分の力不足で護れなかった者の最後も見届けられない愚弟でも、最低限の筋は通させるわよ」
吐き捨て、レイの部隊に指示を出すため路地裏から中央バンク内へ入っていくシャイン。それを見届け、無表情のままレイが小さく口を開く。
「シャイン姉さんも、大事な人たちを見見送ってやれ、だそうですよ。よかったですね兄さん」
――肩に担いだガンマに囁き、待機しているヘリに載せた。
ヘリは貧民街の真上で制止飛行し、そのまま垂直降下を始める。
エレベーターと同じように、貧民街の中央広場が移動するための通路となっている。当然ガンマの存在があるおかげで出来ることだが、ガンマがいなければ敵意を剥き出しにした貧民街の住人が妨害をしてくることも十分に考えられる。
ヘリはそのまま地下施設のヘリポートに降り立ち、再びガンマを肩に担いでケミネのラボへと向かった。
「遅かったな、損傷率はどんなもんや?」
その途中、エレベーターの出口で待機していたケミネが早々にガンマの様子を見る。
肩に背負われたガンマの頭部に小さな針を刺し、計器を見るとAIから送られる情報が一気に羅列された。
「全身の強化骨格が損傷、右腕ロスト、動作制御システムは……このバカ兄貴、自分で取り除きおったな……レイ、記憶チップをはずして母ちゃん……やない、ヤクモ指令に渡してきてや、うちはこのアホ連れてシャイン姉ちゃんの診察室で準備してるさかい」
状態を瞬時に看破し、修理のために最適な行動を行う。
これが、規制のかかっていない初期型とそれ以降のアクトの違い。だからこそ、現行機のアクトは過剰労働を強いられても何も言わない、指示されるがままに働き、壊される。
中には、金属工場の時のようなギアもいるが、それはAIの制御装置が壊れ、自分の意思を持つことが出来たアクトの姿。
労働を強いられる苦しみから解放され、自分の意思を持つことが出来た瞬間ギアと判断される。もしもあの時、金属工場で暴走したギアが投降してくれれば、ガンマもガンブレードを撃つことなく、機体を回収し部隊に入隊させることもできた。少なくとも壊さずに済んだが、そんな事例は少ない。
「兄貴はがんばりすぎなんや……いつも飄々とうちらを扱うんやったら、自分の問題にもそれぐらい器用に立ち回れりゃええのに……」
診察室に寝かせ、マントを脱がせる。
内側には無数のポケットが作られてあり、予備パーツが仕込まれていたが、休暇のためその数は少ない。片手で足りるほどの予備パーツと、血まみれの紙切れ。
真っ赤に染まっているせいで、何の紙切れかはわからないが、ガンマが持っているのならば必要なものなのだろう。
「待たせたわね、状態は?」
「さっき携帯端末に転送したとおりや、全身のあちこちがいかれてもてるから、先に強化骨格の修理をして、それからAIの調整やな。うちはラボへ行ってパーツ持ってくるわ」
状態の報告を終え、ラボへパーツを取りに行く。ケミネの仕事はパーツの作成やシャインの助手。AIの調整や強化骨格の補修、補強はシャインの領域だ。
パーツを開発、作成するケミネ。
それを肉体――本体に取り付け、AIなどを調整するのがシャイン。
ヤクモの外見を改造したのもシャインだが、そのための人工皮膚やシミュレーターを作成したのはケミネといった具合に、家族の役割は決められていた。
「まぁ、こんなこともあろうかと予備のパーツはたっぷりあるさかい問題はないやろ。オペの間に動作制御システムを用意せなあかんな、大体三十分ってところやな」
「何かお手伝いしましょうか?」
パーツを用意している最中に、レイが入室してきた。彼女の役割はガンマの補佐で部隊の管理や訓練などだが、やはりレイもガンマが心配なのだろう。
「ああ、このパーツをシャイン姉ちゃんのとこまで頼むわ、うちはこれから動作制御システムを作るからって伝言しといて」
「わかりました、お願いします」
相変わらずの無表情と抑揚の無い口調でパーツを受け取り退室する妹を見送り、モニターに向かい合い、ケミネはシステムの作成に取り掛かりだした。