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アクト・ファミリア  作者: カミハル
戦いの終わりと結末
49/50

決着の時代

 樹海基地が壊滅してから二十年後――


『本日のニュースです。今日未明に発生した都市部壊滅事件ですが、国や軍上層部が故意に情報を隠匿し、国民を見捨てていた事実が匿名のメッセージによって判明いたしました。これを受けて、国民代表団は国に対してクーデターを宣言、各地で暴動が起きる騒ぎにまで発展しています』

 壁にかけられた大型モニターを凝視するスーツ姿の人間二十名は、それぞれが悲痛な表情を浮かべていた。そもそも都市部を壊滅させるメッセージなど届いていないのだが、メディアが国民に報道した以上、そんな言い訳は通じないだろう。

「代表、どうしますか、官邸前には大勢の市民が殺到しています。軍上層部からはこんなメッセージが公表されたそうです」

『我々は国の代表に指示された通り実行しました。自分たちで判断できなかったが故に起こった事態への罪滅ぼしとして、軍もクーデターを支援させていただきます』

 小型の機械から発せられるしわがれた声、内容はあまりにも無情なものだった。

「くっ、ならば我々の私設軍隊を投入しろ、国のトップに逆らうような愚民を蹴散らせ!」

「それが……各地で頻発しているガデンツァタイプのギア討伐に奔走しており、全部隊を集結させるのは難しいかと……」

 結局、人間は自らの首を絞め、結果息絶えることとなった。

 変わらぬアクトへの扱いが原因と言ってしまえばそれまでだが、偽装情報の漏洩やガデンツァタイプのアクトの煽動など、裏で暗躍していた者の存在が何よりも大きいだろうが、その存在を知る者はいない。

「くっ、ならば地下通路から撤退する! 私設軍の武器を持てば愚民など……」

「堂々巡りだな、結局国民に見放され、同盟国にも見放され、最終的に天にも見放されて惨く、哀れに死んでいく。俺には見えるぜ、あんたたちの未来が」

 厳重にセキュリティのかけられた会議場に現れた一人の男。

 黒いマントに身を包み、背中に携えたトリガー付きの大剣。

「貴様は! 確かに二十年前、樹海の爆撃で……」

「誰が壊されるかよ。マントのポケットに入った飛行ユニットをデバイスに換装して限界出力で離脱したのさ、それから二年間はデバイスAIがオーバーロードを起こしたおかげで、身動きを取ることができなかったがな。そんなことよりも、あの時に樹海の戦闘に関わっていた人間は手を挙げろ。正直に言えば楽に殺してやる」

 ガンブレードを抜き、二十名の人間の顔を見回す。

 誰も彼もが、互いを見合い答える様子はない。

「全員だな、決定だ。ついでに質問だ。ガデンツァシリーズのデータと、樹海の基地に設置されたメインコンピューター……もちろんデータのサルベージはしただろう? それのデータの在り処も吐け」

 入口近くにいた人間にガンブレードの切っ先を押し付けるが、汚らしく涙を流し、首を振るだけで何も答えない。

「ふん」

 鼻で笑い、トリガーを引く。切っ先から放たれたエネルギー弾が人間の頭部を砕いた。

「レイが流したのと同じものを流すな……汚れる」

 会議場の中心を歩き、代表の目の前まで近づく。

 肩に担がれたガンブレードの切っ先は、ただ一つの入り口を向いているため、誰一人逃げることができない。逃げればたちまち頭部を吹き飛ばされた人間と同じ目にあわされる、そう思えば逃げることなどできないだろう。

「お前は知っているよな? あの時、樹海の隅で指揮を執っていたんだ、また逢えて嬉しいぜ、感動の再会だ。予想通りお前みたいな無能が、国のトップに立ってくれたおかげで、世界中の人間を敵に回さなくて済むかもしれないんだ、感謝しているぜ」

 椅子を蹴り飛ばし、地面に尻もちをつかせる。できることならばこの場でバラバラにしてやりたいが、まだ早い。

「さぁ、レイとケミネのバックアップデータの在り処はどこだ? これは立派な犯罪だぜ? 人さまの家族を誘拐、監禁ってところか、データだがな」

 邪悪な笑み。そう形容するのが一番正しいだろう。嬉しそうな、それでいて殺意の込められた笑み。

「で……データは全て官邸の地下ラボに……頼む、殺さないで!」

「安心しろ、俺はお前を殺さない」

 はっきりと言ってやる。彼にこの男を殺す意思はない。

 それに対して、周囲の人間はざわめき、同じように懇願するが――

「それ以外は知ったことじゃないがな」

 地面を蹴り、次々と人間を斬り伏せていく。

 抵抗もできず命を奪われる人間、文字通り虐殺だ。

「さぁ行こうか」

 代表の襟首を掴み引きずる、ロックのかかった扉はガンブレードで叩き壊し、正面玄関目指し歩いて行く。

「ま……まさか」

「自分がいかに国民に想われているか、身をもって知りな。言っただろう? 俺はお前を殺さない。代わりのジャッジは人間に委ねるぜ」

 もっとも、国民が殺さなければいつか自分ガが殺しにいく、手駒なんかに約束を守る必要はないと、彼は本気で思っている。

「やめて……許してくだ……助け……」

 正面玄関を蹴破り、群衆を見つめる。

 それまで騒いでいた人間たちも、彼と代表の姿を見て、騒ぎを止めた。

「さぁ、お前たちの代表だ。煮るなり焼くなり好きにしてやれ、お前たちを裏切り、街一つを私利私欲のために滅ぼした大罪人だ。街にはお前たちの身内や大事な者もいただろう、こいつがすべて奪った! お前たちにはこいつを裁く権利がある!」

 大々的に人間を煽る。ここまですればこの男の命はないだろう、国民に私刑を受け、ボロ雑巾のように捨てられる――まるでアクトがそうされ続けていたことの意趣返しのように、この男も同じ目に会うだろう。

「まさか……街を壊滅させたのも……メッセージをメディアに流したのも……あの時、俺を生かしたのも……」

 そう、アクトの待遇を変えたいのならば、国のトップを潰し、新たにアクトを大事に想う人間をトップに据えればいい。全てはアクトを低く見た人間が悪いのだろうが、それ以上に、そんな体制を作ってしまったトップが全ての原因だ。そんな答えにたどり着いた。ただそれだけの答えにたどり着くのに、ずいぶんな時間と犠牲を払ってしまった。

「さすがは俺の見込んだ手駒、いい勘だ……もっとも、かなり遅いけれどもな」

 群衆の中に代表と呼ばれていた男を蹴り飛ばす。

 再び群衆が騒ぐが、彼はすでに興味を無くし、官邸の地下ラボへと向かった。


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