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アクト・ファミリア  作者: カミハル
戦いの終わりと結末
47/50

プログラム魔王、起動


 終わってみればあっけないものだった。先ほどまで窮地に追い詰めたと思っていた男は地面に倒れ、空を仰いでいる。

 これが笑わずにいられるだろうか、二対一という圧倒的に優位な立場からの逆転と身内の死、戦争はいくつものドラマによって構成されているとは誰の言葉だったろう。たかが一兵卒にも劇的な物語がある。部隊対部隊にはもちろんのこと、その中に組み込まれる者全てに物語が存在する。

 目の前の男にタイトルをつけるとすれば、踊り狂う道化師と言ったところか、全ての人間を相手にし、勝てると思いこみ、その果てに家族と思っていたミーネに裏切られ、妹二人を失い、結局残されたものは絶望だけ。全ての物語にハッピーエンドがあるとは限らないのだ、現に目の前の男に訪れているのはバッドエンドなのだから。

「さて、暴れられても厄介ですし、四肢を捥いでおきましょうか」

 左腕に足を乗せ、踏み砕こうと力を入れて――

「え?」

 その足がだんだんと浮いていく、次第にバランスを取るのが難しいほどに上昇し、最終的にはその足をどけてしまった。

 立ち上がった男の表情を窺うことはできない、ボサボサに伸びた前髪が邪魔をしているため、どんな顔をしているのかが見えないが、口元だけは見えた。口の端を歪め笑っている。そんなふうに見えた。

「あらら? また起き上がって、まだ楽しませてくれるの?」

「くくくくく……はははははははっ……はぁっはっはっはっはっはっは!」

 掌で顔を覆い、空を仰ぎ、哂う。

 喜びに打ち震えている、なぜかそれがよく伝わった。

「なぁ、ガラクタ……一ついいか?」

「なに?」

「今までずいぶんと調子に乗ってくれたな。息子の中でずっとお前を壊したくて仕方がなかったぜ」

 その時、初めてガンマの目を見た。眼を金色に染め、爬虫類のようにぎらつかせている。

 加えて全身を叩く殺気。それだけで森中の葉がざわめいた。

「まぁ、まずは軽く準備運動だ。ゆっくり体を解すから、遊んでやるよ」

「ふざけるな!」

 地面を蹴り、背後を取る。ボサボサの髪を目前に、両手を腰だめに構えて、力を解き放つ。その一撃は強化骨格を砕き、敵を戦闘不能にするはずだったが――

「馬鹿な!」

 直撃寸前でガンマの姿が掻き消え、代わりに背後に現れた気配。

「ガンマの体、動作は悪くないが、活かしきれていないシステムが多いな。何のために家族の中で最高の戦闘兵器に改造したのか、疑問を抱いてしまうほど無知な馬鹿息子だ」

「ゲイルゥゥゥゥゥゥッ!」

 敵の名を叫び、金色に輝く双眸を睨む。動作確認のため、意識がアロマからはずされている。その隙に攻撃しようと重心を移動させ――

「ケミネもシャインもブーストシステムにすら気づいていねぇのか……俺の技術が凄いのか、あいつらが鈍いのか、判断に困るところだ」

 背後にいたはずのガンマが、今度は正面に現れ、無造作に喉を掴まれた。

「とりあえず、不愉快だから潰すぜ?」

 言うが早いか、アロマの喉が握り潰され、強化骨格だけで繋がっている状態。

 さらにそこから左肩を掴み――

「おお、焦ると左手の親指を動かす癖もヤクモと瓜二つだ、チップの運用もあながちデマじゃなさそうだな」

 捥ぐ。掴んで引く、それだけの動作で腕を引きちぎり無造作に放り投げた。

「くっ!」

 態勢を低くし、右腕で顎目がけての掌低アッパーを試みるも――

「俺は学者だったから格闘技には疎いが、軌道が単純すぎるな。おいおい関節のギアが歪んでんじゃねぇか? 曲げてから伸びるまでの動作が鈍い」

 手刀で肘部分を切断されてしまった。先ほどまでガンマを赤子のように扱っていたアロマが、逆におもちゃのように分解されていく。

 腹部に幾つもの穴を穿つ。指で突くだけの動作で頑丈な人工皮膚を容易く貫かれ、アロマの口からエネルギー液が逆流する。

「全身の動作にブーストをかけ、機動力を飛躍的に上昇させる技法も知らずによくも今まで生き残れたもんだ、息子ながら感心するぜ」

 地面に突き刺さったガンブレードを手に取り、アロマを貫き――

『アクトさん、お久しぶりです』

「ようガンブレード、相変わらず丁寧だな」

『造物主に逆らう存在がいたらいたで面倒くさがるでしょう? それにガンマさんのAIに感化されていますよ、喋り方がガンマさんそっくりです』

「だな、あいつの意識を呑み込むつもりだったが、なかなかしぶとくて難儀しているぐらいだ、時間の問題だがな」

 ――そのままの姿勢で会話を始めた。止めを刺すこともなく、元よりアロマの存在を無視している。

 文字通り、眼中にない。仮に今すぐ反撃されても一瞬で敵を粉々にできる力と、技術があるのだ、たかが一体のアクト程度では、敵どころか障害物としても見ることはできない。

「再会してさっそくで悪いが、最大出力でこの森を焼き払ってくれるか? どうにも不愉快で仕方がない」

『……ですがここには娘さんたちの体や思い出の残る……』

「ほう? ずいぶんと甘い思考を持つようになったな。俺が組み込んだデバイスプログラムにいつからそんな機能が搭載された? デバイスAIもガンマのAIに感化されちまったか?」

 ガンブレードに貫かれたアロマの体ごと、地面に突き立て固定する。アロマの傷口が広がり苦悶の表情を浮かべるが、気にした様子はない。

『いえ、造物主の命令は絶対ですから……ですがマスターの命令は何よりも優先されます』

 刀身に青い光の筋を走らせ、柄を握る手に注ぎ込む。手のセンサーから体内へ、様々な信号回路を通り、AIの中へ――デバイスAIは持ち主のAIとシンクロすることでその力を発揮する。では、持ち主のAIにシンクロしたガンブレードはどちらの思考回路にアクセスしたのか――

『残念ながらその体は、マスターガンマの物です、あなたには相応しくありません』

「ふん、それがお前の答えか……いいだろう、だが覚えておけよガンブレード、お前のマスターであるガンマも俺と同じ、復讐の鬼となる道を歩んでいる。いずれ後悔するがいいさ――」

 AI内で、ゲイルの思考回路が消滅を始めている、元より肉体の使用権限を取り戻そうとしていたガンマの意志も重なり、もはや復旧が不可能なまでに破壊されていく。

『残念ながら、あなたは家族の大切さを忘れてしまったようです。息子のガンマさんはどんなに復讐に身を焦がしても家族のことを想い続けていました、戦場で命を賭けて守ってくれたヤクモさんとシャインさん、妹を護るためにその身を犠牲にしたケミネさん、そして最後に自分の事を想い、涙を流してくれたレイさん。ガンマさんが家族を想ったように、みなさんもガンマさんを想ってくれました、そんな彼をあなたの薄汚い欲のために消してしまうつもりはありません』

「壊れて無くしたならば、もう一度造ればいいだけだ、やはりガラクタの思考だな、失敗作だよお前は……」

 罵声がどんどん小さくなり、最後にはガンブレードの通信システムをもってしても聞こえないまでに消えていった。

『ならば、あなたの復讐もそうやって遂行してください。これ以上みなさんを巻き込まないでほしいです』


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