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アクト・ファミリア  作者: カミハル
妹たちとそうでない者
43/50

待ち焦がれ出

 粉塵が風に乗って飛ばされる。周囲に生存する生物はなく、あるのは二体のアクトだけ。

 そんな中、ケミネの体が動いた。

 片腕で地面を掴み、匍匐前進。レイの場所へとジリジリと距離を詰める。

「くそっ、なんちゅう奴や、自分の体切り離して挙句に爆発……これやから人間に作られたアクトはあかんねん」

 地面から手が生えている。そんな言葉がぴったりなほど見事に埋まった妹。

 力なく垂れ下った手首を掴み、それを引っ張ると確かな重量を感じた。

「やっぱり生きとるな、待っててや、今すぐ掘り起こす……」

 残った右腕で、懸命に地面を掘るとレイの顔が出てきた。さらに掘り続ける、人造皮膚が傷つき、はがれても掘り進め、ようやくレイの体を地面から掘り起こすことができた。

 右足が復旧不可能なほど損傷している以外、別段問題はなさそうだ。胴体はローブが護ってくれたようだ、ボロボロのローブを破り捨て確認するが、大きな損傷はない。

「さすが兄貴のマントと同じ材質だけのことはある」

 強化骨格に見えない損傷があるかも知れないが、起動に問題はなさそうだ。

「コスモ、まだ動けるか?」

『ええ、そういうあなたは?』

「まだいけるで、敵にやられて即死なんざ、うちや兄貴が一番嫌う事や」

 ベルトからコスモとアタッチメントを取り出し、ボロボロに損傷した右足を取り外し、足の先端を除き、地面に埋めておく。

 続いて、自分の右足を取り外し、レイに取り付ける。ケミネの体はすでに破壊されているため、規格が違うが十分動くはずだ。

「あかんなぁ、これで右腕だけになってもうた……」

『まだできることはありますよ、最後までやり遂げて、それから眠りましょう』

「はっ、ほんまや、このままやったらまだ足りへんもんな」

 片腕でレイを掴み、大腿部と肘だけでレイを引きずる。

 思うように進めないが、幸いなことに地面から掘り起こされた大岩が近くにある。

 そこの陰まで運ぶことができれば――

「まったく、お姉ちゃんってのは損やな」

『あなたの母も姉も、そうやって皆を護って逝ったのですから』

「そうやな、案外悪くない気分や……」

 ようやくの思いで目的の場所に到着し、レイの体を岩陰に放り込み、元いた場所へ戻る。

 土を掘り起こされ、出てきた岩なので、段差があり簡単には見つからないはずだ。

「そういえば兄貴の方は無事に勝てたみたいやな」

『そのようですね、チャンネルを開くことができないので詳細は不明ですが、あの人が負けるところを想像する方がよほど難しいくらいです』

「ははは、えらいゆわれようや、兄貴にも弱い部分はあるねんで、うちらには見せへんけどな」

 レイを抱えていないせいか、戻るのは楽に戻れた。地面から突き出た足のそばで仰向けに寝転がる。結局湖のある場所にみんなでもう一度行くことはできなかったが、大好きな人とお互い死なずに同じ空の下にいるのだと思えばそれだけで満足だ。

(兄貴もいつか、誰かの気持ちを考えることができるとええな……残念ながらうちはそうなられへんかったけど、うちじゃない誰かの気持ちを考えられる、そんなアクトに……)

 胸中で願いを囁き、目を閉じる。どうやら間に合ったようだ。

「おい、発見したぞ。報告通りだ、体のパーツを損傷したアクトと残骸だけ埋まったアクトだ」

 レイの足を――すでに残骸だが――掘り起こし同僚に投げる人間の姿を確認する。

 数は五十。たかが二体のジャンクに大層な人数だ。

「ご苦労さんやな、残骸の回収か?」

 ゆっくりと態勢を変え、うつ伏せになり視線を向ける。完全に起動を停止していたと思っていた人間たちは大いに驚いたが、ケミネの状態を見てすぐに冷静さを取り戻したようだ。

 倒れたケミネの前髪を掴み、無理やり起こし嫌らしい笑みを浮かべた。

「まぁそんなところだ、お前こそいい姿じゃないか。これで生き残っているのはガンマ一体だけ、こちらにはまだ千の部隊が残されている」

「そのうえ、アロマ・ガデンツァか……確かにこちらに勝ち目は残されてへんかもな」

 髪を掴まれても痛みを感じない、すでにいくつかの信号伝達機能が破損しているようだ。

 しかし、人間にこんな扱いを受けても絶望することはない。泣いて命乞いする必要もない。万が一、レイが見つかってしまわないように、人間の意識をこちらに向ける、それだけでいい。

「なぁ人間、お前たちは気づいてないんか? もしも兄貴がその気になれば、お前ら全員を回避して主要都市部を殲滅することもできんのやで?」

 もっとも、家族がこんな目にあって、黙ってそうするとも思えないが。

「ははは、所詮はアクトだな、主要都市部を警護する部隊もきちんと残してあるんだよ、人間の全軍がこの程度だと思うなよ、ガラクタが!」

 頭部を地面に叩きつけられる、二度、三度叩きつけられ、再び視線を嫌らしい笑みの人間へと向けさせられる。

「ついでに良いことを教えてやろう。俺たちがその気になればこんな樹海なんか簡単に消し飛ばすことができるんだ、だがそうしない、なぜだと思う?」

「小隊長、さすがにそれ以上の情報は……」

「固いことを言うな、どうせバラバラにしちまうんだ、マネキンに性癖を暴露するのと同じさ」

 小隊長のジョークに他の人間も笑いを洩らすが、ケミネは人間の情報が気になった。

 消し飛ばせない理由――メインコンピューターはミーネが壊してしまった、他に思い当たるものは――

「プログラム……魔王か」

 ケミネの囁きに、小隊長の表情が変わる。軽薄な表情から感心した表情に。

「正解、ご褒美だ」

 部下に合図を出し、右腕をへし折る。肘のあたりでへし折られた傷口からは小さな放電と真っ赤なエネルギー液が流れ出るが、痛みを感じないのならば気にする必要もないだろう。

「父ちゃんが作成した謎のプログラム。表向きはアクトの感情プログラムに干渉するためのもんやと聞いてたが、その様子やとなんや裏があるみたいやな」

「いい勘してるじゃないの、おいもう一発褒美をくれてやれ」

 再び部下に指示を出し、ケミネの胴体に三発の銃弾を撃ち込む。アクトの急所を熟知しているのか、急所からだいぶはずれている。

「まぁ、俺たちはお前の兄貴を生け捕りにする必要があるからな。冥土の土産ってやつはここまでだ、ポンコツが天国だか地獄だかに行けるかどうか、知ったことじゃないが化けて出るなよ」

 銃口を額に押し付けられる。このまま弾丸を撃たれれば、AIが損傷し完全に起動を停止してしまうだろうが――

「思い残すことはなんもなさそうや、最後に兄貴に会えるんやったらうちは満足や、あんたの言葉、そっくりそのままお返ししたるわ」

 首の動きだけで、上を示す。

 つられて真上を見る小隊長と部下たち、その場にいるもの全員の視線が一点に集まった。

「長々とお喋りしてくれたおかげやで、ありがとさん」


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