歩く重戦車
『攻撃プログラムの整理完了だ、ハイエンシェントバルスは最後尾にセットしておいたから使用する時は認証パスの詠唱を頼むぜ。続いてモード・ゼロ起動準備に移る』
ギガントのメッセージを聞きながら、アロマの正面めがけ跳躍、至近距離で二門の銃口にエネルギーがチャージされると同時にそれを回避、離れた距離で回避するよりも至近距離で回避した方が行動パターンに広がりが出る。
ガンマの受け売りだが、その教えが役に立った。
一瞬気を抜いた隙に、アロマの左腕がこちらに突き出される。
手首がパージされ、そこから散弾が放たれた。
よく考えられていると思わず感心した。遠距離と近距離での武器の使い分けがよくできている、二門のレーザーは至近距離では効果が発揮されにくい、というのも、二門のレーザーが交錯しその出力を高めるための距離が取れないためだ、一門だけの攻撃を受けても、少々外装が焼けてしまうだけで強化骨格までは届かないだろう。
しかし、中に仕込まれた散弾型の出力兵器が近距離戦での欠点を補う。散弾が完全な威力を発揮するのは近距離戦、遠距離では小さな弾が拡散しきってしまうため、威力が落ちるが近距離ならば、その効果を最大限に発揮することができる。
「他にも色々な隠し玉がありそうだね」
掌にエネルギーを集束し、自分の前方斜め下に掌低を打ち込み、土を噴出させる。
それが壁となり全ての弾丸を受け止め、おまけに姿を隠すことができた。
(この隙に攻め込みたいけれど……まだ早い)
敵の武装から、エネルギーシールドの搭載や反重力、そして両翼の効果の読みはケミネと一致している。しかし、ケミネと違うのは敵のエネルギーがほぼ無限ではないということだ。あの両翼がどれほどエネルギー効果があるのかはわからないが、少なくともエネルギーを消費させるのは無駄ではないだろう、そしてアロマに搭載されている武器の全てが出力兵器であるということ、質量兵器では弾丸がさらにアロマの重量を増やしてしまうし、弾切れになれば武器事態がデッドウエイト、無駄な重量を増やさないのと、背中の両翼が装備されていることを考えれば、無駄な質量兵器は持ち合わせていないだろう、人間の開発者がただの愚か者ならば可能性が残ってしまうが――
『モード・ゼロ起動!』
「レイ、行くで!」
モード・ゼロが起動し、全てのエネルギーが全身に充満するのと、ケミネの到着はほぼ同時だった。モード・ゼロの発動によって、飛び道具系の攻撃は全て封印されたが、その代わり身体能力と攻撃能力が飛躍的に上昇する。
「ケミネ姉さん、あたしがバックアップしますので解体してください!」
「イエス・サー」
軽口を叩きながら、ベルトから工具を取り出す。
一本の棒を握り、それぞれの工具を装着するアタッチメント式。デバイス、コスモは本体である棒に搭載されている。
『まずは肩の砲門を解体し、そこから腕を解体します』
「うっしゃ、ほんなら敵さんのダイエットに協力したろか!」
棒の先端に先の尖ったドリルを装着し、間合いを詰める。
さすがに装備が重いのか、こちらを振り向く速度もゆっくりとしている。
「遅いで! 肩の砲門一基もらいや!」
ドリルの先端が肩に触れたかと思えば、一瞬のうちに重厚な音を立てて左の砲門が落ちた。
アロマがそこに一瞬だけ意識を移した隙に、もう片方の砲門もはずす。恐るべきスピードで今度は左肩を狙うが、その頃にようやく振り向いたアロマの胸部から二本の銃身が姿を現した。
「ケミネ、レイ、二機の敵を発見。これより排除します」
銃口から針金程度のレーザーが照射されるが、ケミネはそれをいとも容易く回避。
様々な機械をいじってきた彼女だ、照射前の予備動作や熱量の大体は把握している。
「遅いで、左腕ゲットや!」
砲門と同じように左腕が音を立てて地面に落ちる。これで散弾の脅威は半減した、アロマの左方向を中心に攻めれば、右腕の散弾砲の照準がセットされる前に逃げることができる。
「後ろがガラ空きですよ」
アロマの背後から、か細い声。振り向こうと首を動かした時には、すでにレイの拳が背中に直撃していた。重量のおかげで倒れることはないが、バランスを大きく崩す。
「今度は右腕や」
「調子に乗らないでください」
傾いた体の重心を立て直さず、そのままケミネにタックルを仕掛ける。
レイが止めようと回し蹴りを放つが、止まることなく右肩がケミネに接触した。
「パージ、そしてクラッシュ」
アロマが囁くと同時、右肩から蒸気が噴き出し、右腕を自分の意志で切り離す。それがパージだとすればクラッシュは――
「ケミネ、排除完了」
――直後に爆発。アロマはエネルギーシールドを張り、熱風を避け、爆風や衝撃は重量と装甲でカバーしたようだ、レイの見立てでは今の爆発はケミネの方に指向性を持たせていたように見えた、そうだとすれば――
「ケミネ姉さん!」
煙で姿が確認できないが、今の爆発の出力ならば、ただでは済まないはずだ。
そしてレイのそんな隙を突く形でアロマの両翼が大きく開かれた。
「あなたにエデンを見せてあげましょう」
両翼の中間で巨大なエネルギー反応、翼の一つ一つからエネルギーが放たれ、放電現象を巻き起こし、巨大なエネルギー球を形成している。
「神々の御使いよ」
囁くと同時に、巨大なエネルギー球が、親指程度の大きさの弾丸を形取り、レイに襲いかかる。幾つあるのか、そんなことを考えている暇はない、レイは必死に回避行動を取り弾丸の雨を避け続けるが、回避しても方向を変えて再び襲いかかってくる。気づけば周囲を囲まれ、脱出も不可能になってしまった。そして――
「裁きを下せ」
再びアロマが囁くと、回避した弾丸が次々と爆発を起こし始めた。回避すれば爆風で動きを封じられ、直撃すれば、あとは蜂の巣になる。一部の隙もない攻撃だ。
当然爆風で吹き飛ばされ、倒れたレイに次々と弾丸が襲いかかる。
それを回避する術はなく、ただ爆煙とそれが舞い上げる土にその姿はかき消された。
「任務完了しました、現在武装の一部が解体されたため一度本部へと帰還します」
『ちっ、情けない。帰還を許可する。さっさと戻ってガラクタどもを始末しろ』
「……了解しました」
煙が晴れ、左腕と左足が消し飛び腹部に損傷を負ったケミネと、土に埋もれ腕だけになったレイの姿を確認し報告を終えると、本部の方向へと進路を変更した。
「……追加報告、たった今ガンマの手によりミーネ・ガデンツァの反応が消えました。臨時に応援を要請します。戦力はそちらの判断にお任せ致しますが、修理が終わるまでの間で結構です、以上通信を終了致します」
今度こそ、アロマは本部へと帰還した。