最期に欲しかった言葉
「雌豚……誰のことかは知らねえが、お兄様お兄様と狂ったようにほざくお前よりはよっぽどお上品だと思うぜ?」
明らかな挑発と同時に熱源反応を検知、今度は逃がさない。
「お兄様を侮辱するなぁぁぁっ!」
「お前の言葉は無茶苦茶だ!」
ガンブレードの持ち方を変え、向きは変えずに背後に突く。手ごたえ有り、何かを貫いた手ごたえに口の端を歪め――
「お兄様はあたしを愛している、お兄様だけがあたしの拠り所、お兄様だけが、お兄様だけが……」
目の前でこちらを見上げるミーネ。身長的なものではなく、ミーネが重心を落とし、ガンナイフを振り上げる。
ガンブレードを背後に突き出した姿勢が仇となり、喉目掛けて振り上げられたナイフを、首を後方に下げることで回避するが、左目に裂傷を負ってしまった。
『左モニター損傷、被害軽微、戦闘続行に支障はありません』
いつもならば、AIのメッセージに何かを言い返すのだが、そんな余裕は無い、振り上げたナイフを持ち替え、今度は頭部に突き刺そうと振り下ろしてきた。
「舐めるなよ!」
左手をガンブレードの柄から離し、ナイフを持った手首を払い軌道を変える。
「お返しだ!」
右腕一本でガンブレードを豪快に横薙ぐ、腕を弾かれ、体制を崩したミーネは、バックステップでそれを回避するが、ガンマはミーネが予想しない行動でそれを防いだ。
「大きな剣は振るう以外にも使えるんだぜ」
手を離す。剣術においておよそありえない行動だが、横一文字に振るわれた刀は、その間合いを広げ、ミーネのわき腹に直撃。
小さな体を湖の中へと叩き落した。
「回転エネルギーより腕の膂力の方がダメージを与えられるんだが、間合いの外ならこれしかないんでね」
波紋を立てる湖に視線を固定し、地面に落ちたガンブレードを拾う。先ほど突き刺したのは大きな木片だったようだ、それを引き抜き、湖に投げ捨てる。
『波紋を乱してどうするんですか、敵の行動がわかりづらくなったじゃないですか』
「悪い、つい何気なく」
悪びれた様子も無く湖面を見つめる。
水中では出力兵器の威力は七割もダウンしてしまう、そのためにエネルギーを使うのはばかばかしいし、何より大きな隙になる。
「ほう? てっきり湖から飛び出してくるかと思っていたが、ずいぶんと地味だな」
ゆっくりと這い上がってくるミーネを見下ろし、軽口を叩く。このまま接近して一気に叩き斬ってしまいたいが――
「お兄様が……お兄様が……」
手の平をこちらに向け、呪詛を吐くように同じセリフを呟く。
「お兄様が待っている!」
突然現われた真っ赤な光の壁、それがガンマの周囲を包み、徐々にその範囲を狭めている。
「エネルギーシールドの檻だと!」
ガンブレードをつっかえ棒に代用し、その進行を防ぐが、上からも迫ってきている。このままでは押しつぶされ、プレスされたスクラップになってしまう。
「ひゃははははっ! 潰れてしまえ、塵になれ! お兄様を侮辱した罪をその身で味わってしまえ!」
「だから、いつ俺が侮辱した! 人の話を聞かないのは相変わらずだな」
ガンブレードの柄を握り、デバイスに指示を出す。
「コア・ブレイクだ!」
『しかし……範囲が狭いので脱出するのは不可能ですよ……』
「いいからさっさとしろ、このままじゃお前の破片と俺の残骸がごちゃ混ぜになるぞ!」
『最速で行います!』
マスターが壊れてしまうのが嫌なのか、それともマスターの残骸とごちゃ混ぜになるのが嫌なのかは聞かないことにする。
「聞き分けの無いガキは――」
『コア・ブレイク発射シークエンス完了』
「――こいつでも食らえ!」
トリガーを引き、黒球を射出。貫通効果のコア・ブレイクは、シールドに拳程度の穴を開け、そのままミーネの右腕を貫いた。
「しまった!」
ミーネの腕が湖に着水すると同時に檻が消え、瞬時に距離を詰めたガンマが冷たい眼差しで見下ろす。
「やはり右腕に核がセットされていたか、小型で便利だが、コアを破壊されちゃお終いだな……聞いてやる、どんな壊され方がお望みだ、言ってみろ」
切っ先を喉元に突き付ける。あと少し力を込めれば、動作チップを貫くだろう――ガンマと同じ位置にセットされていればの話だが。
「いや……助けて、助けてお兄様」
目に涙を浮かべ、後ずさりするミーネ。
プログラムの効果が切れたのか、先ほどまでの威圧感はすでになりを潜めている。
「お前の言うお兄様ってのが誰だか知らないが、お前は少々やりすぎた」
ガンブレードを高々と振り上げる、許すも何も、生かしておくつもりは無い。
「じゃあお兄様……最後に……嘘でもいいからミーネを愛しているって……」
重厚なガンブレードを振り下ろし、そのまま叩き潰す。慈悲の心など一片も無く、ただ邪魔だから壊す。
その残骸を見下ろし、ガンマは冷たく呟いた。
「敵に掛ける情けは無い。生まれ変わりがあるのだとしたら、俺に愛という言葉の意味を教えてくれ、話はそれからだ」
ガンブレードを背に戻し、湖の湖面に視線を移す。飛び散ったパーツが着水し、所々で波紋を生み出していた。
『ガンマさん、もしかしたらミーネさん、正気に戻っていたのでは……』
興奮剤代わりのプログラムが効果を失っていたのだとしたら、その可能性も無くはない。無くはないが――
「敵に回ったやつに掛ける情けは無い」
それだけで片付けてしまった。
結局、ミーネが正気を取り戻したのかどうか、それを知る者は記憶チップの中だけだが、それも、冷たい湖の底へと沈んでしまった。




