再戦、レイVSミーネ
冷え切ったはずの体に再び温度が戻り、同時に体の自由を取り戻せたことを確認し、ゆっくりと目を開ける。
現在時刻は午後一時二十五分、形としては三十六時間早く、敵に先手を打たれてしまった。しかし問題はそこではない。
『ガンマの野郎、まだのん気にお昼寝タイムを楽しんでやがる、ガンブレードからも一向に応答がないときたもんだ』
ギガントが苛立ちを隠そうともせずに毒づくが、無理もないだろう。こうしている間にも戦場の勢力図は大きく変わっている、アクトに搭載されているAIよりも広範囲の情報収集能力やエネルギー操作に長けたAIを搭載しているデバイスの視点から見れば、ガンマの戦力が不可欠なのだ。それだけ状況が悪化している現実が目の前にある。
「状況の説明と、起動状態のままで各種チェックを」
『もうやっているよ、状況は簡単に説明すれば、最悪の敵が二体戦場にいるってことだ』
「わかった」
他にも聞きたい事があるが、そうも言っていられないらしい、すぐ近くで小規模な爆発が発生し、それが徐々にこちらへと近づいてくるのだ。
「今度こそ決着をつけてみせる」
レイはその原因を察知していた。
先ほどよりも禍々しいエネルギーを放ち、荒れ狂う力の波動、それでいて見事なまでに制御されている。
「ギガント……あたしは昔から疑問に思っていた……アクトとギアの違いを……」
『定義的には人間に害を及ぼすのがギア、人間に忠誠を誓い、尽くすのがアクトらしいぜ、まったく馬鹿げているとは思うがな』
「なら、今のあたしたちもギアってことになるのかな? それとも自分の意思で人間を滅ぼそうとしているのだから……」
『人間の支配下から離脱した瞬間からアクトは離脱した一個の存在だ。自分で決めたのならそれは暴走じゃない、意思だ』
いつの間にか爆発が止み、風が木の葉を揺さぶる音だけが残された。すでに敵の間合いの中にいると見ていいだろう。
「自立したアクトか……じゃあ彼女もそうなのかもしれないね、ギアじゃなくあたしたちと同じ……」
背後からエネルギー反応を検知、すぐさま回避行動を取ると、今までレイがいた場所に無数の散弾が撃ち込まれた。
「お兄様とあたしの敵……あなたも…………排除する!」
もはや戦闘プログラムだけで動いているようだ、なぜ壊したはずのレイが、修復されているのかという疑問を持っている素振りも見せず、散弾銃の銃口をレイに向け、口の端を歪めるミーネ。
『こういうのは暴走したギアって呼ぶんだ、ガンマの野郎に対する想いだけで戦う戦闘兵器。お前と交わした会話が最後だったのかもしれねぇな』
「かもしれないね、それでも敵ならば壊すだけ、邪魔はさせない」
木の枝に飛び乗り縦横無尽に枝から枝へと素早く移動し、ミーネの銃口の照準から逃れる。接近戦に持ち込めばガンナイフ、かと言って遠距離戦を挑めば、まず勝ち目がない。
「なぜ邪魔をするの? あたしはお兄様と共に新世界のアダムとイヴになりたいだけ、そのためには人間もアクトもお兄様も全てを壊すの、全部、全部全部全部!」
支離滅裂な言葉を発しながら、無作為に散弾を射出するミーネ、このままではAIの過剰加熱で大規模な爆発を起こしてしまうかもしれない。
「仕方がない、ギガント」
『ハイエンシェントバルス起動』
両手のデバイスにエネルギーを注ぎながら回避行動を続ける。広範囲に射出される弾丸を避けるのは一苦労だが、かといって正面から殴りあうにはリスクが大きすぎる、それほどまでに彼女の接近戦でのスペックが高いのだ。唯一の救いは、暴走のおかげで精密な遠距離射撃が封印されていることだが、それも確証が持てない。
「本当に厄介な子だ、兄さんに対して少し甘えすぎだよ」
『起動完了、いつでも行けるぜ!』
毒づくのと同時に、起動準備が完了。あとは発射のタイミングだが、ミーネの散弾銃は十二発装填の特殊設計、加えて反動をほとんど感じていないのか、発射から装填、照準までの時間が恐ろしく短い、狙う隙があるとすれば――
「ここ!」
――マガジンの弾丸が切れ、リロードする瞬間、木から飛び降り、ミーネの腹部に両手の平を押し付け、突き飛ばす。
「ハイエンシェントバルス、発動」
突き飛ばした手の形をそのままに、地面に叩きつける。両手に集束されたエネルギーが地面を伝い、先ほどあてがわれた腹部に残されたエネルギー端を求め、地面を砕きながらミーネの腹部に集い――
「終わりだ、ミーネ・ガデンツァ」
地面から天を衝くような爆発、総エネルギーの七割を消費しての一撃だ、これが通じなければ勝ち目がない。
「もっとも、ビル一つを軽く消し飛ばす威力の一撃、エネルギーシールドでも耐えることはできな…………」
絶句する。消し飛ばすどころの騒ぎではない、爆炎の中から悠然と歩を進める姿は余裕すら感じさせた。
「お兄様とあたしの愛の炎」
燃え盛る木を無造作に叩き折り、素手で掴む。生まれて初めてかもしれない、敵が怖いと思えたのは。自分の攻撃が通用しないからでも、勝ち目がないとかそんな理由ではなく、もっと心を抉るような根本的な恐怖。
『どうする?撤退するか……』
「ここで逃げても基地が壊滅させられてしまう、即ち負け。ならここで止めるしか……」
勝てないだろう。事実今の攻撃出力で敵のシールドを打ち破れないのでは、手がない。
(せっかく治してもらったのに、今度は大破させられるかもしれないね……)
胸中で弱音を吐き、両手の拳を打ち鳴らし地面を蹴り、貫けない壁に立ち向かった。




