妹の気持ちと緩み
そんな日々がいつまでも続けばよかったのだろうが、四日という時間はあまりに短すぎた。ガンマの言う日時まであと三十六時間。すでに地下では武装を終えた兵三百が揃い、あとは時間を待つだけとなった。
「作戦や指示はオープン回線を用いてリアルタイムで行う、ケミネは都市を制圧後、仮拠点を置き、そこで補給等を頼む、レイは俺と最前線で人間の駆除、ミーネは都市中心部のタワーから地上を狙撃、敵の妨害、及び殲滅と人間の駆除を頼む」
『了解』
三人が一様に答える。
部隊を振り分けることはしない、ランダムで街中に散開させ、ガンマとレイは単独行動。一見無謀に見えるが、戦力を集中させるよりも分散した方が広範囲に渡り、攻撃を展開することができる。こちらは敵に比べて数に劣るのだ、それを頭に入れればこの作戦が最良の策だと思う。
「んじゃ、三十六時間後に基地前に集合だ。各部隊はスリープモードでエネルギーの節約に努めさせてくれ、以上解散」
作戦会議とはいえ、この場にいるのはガンマとその妹三人だけ、しかもガンマの自室。重苦しい雰囲気がない分、良いことなのかもしれないが気になることは一つ――
「俺の話聞いていたか? レイ、ベッドの下を漁るな、ケミネ布団に包まるな、ミーネはクローゼットを漁るな」
始めて入った兄の部屋で奇行に走る三人にそれぞれ注意を促すが聞いた様子もなく、各々が好き勝手に行動していた。
「ったく、まぁ今から三十六時間後にはこんなことしている余裕も無くなるんだから多少は大目に見るが、あまり羽目を外すなよ」
諦め、自室を後にする。自分の部屋のはずなのに追い出された気がしないでもないが、あくまで自分は避難したのだと言い聞かせる。
そこへガンマに個別の通信が入った。チャンネルからしてミーネだろうが、他の二人に傍受されないように特殊な信号を使っているあたり真剣な話なのかもしれない。
「何の用だ? くだらないことならばご遠慮願うぞ」
『いえ、作戦の前にどうしても確認したいことがありまして』
「ほう、良い心がけだ」
『この作戦が終われば、ミーネをお兄様の特別としてお側に置いていただけますか?』
「……お前にとっての特別っていう言葉の概念がわからない。言っておくが茶化しているわけじゃない、俺にとっての特別は家族という名称で呼ばれる集団だけだ、しかしお前はもう俺の妹だろう? それ以上の特別とはなんなのか、それを教えてくれないか?」
『人間で言う夫婦……ということです。もしもミーネたちにも人間と同じような繁殖機能があれば、共に生き、過ごし、子を作り、ミーネたちの歴史を語り、次の世代にそれを語り継いでもらう。ミーネが言う特別とはそう言う事です』
「なら不可能だ、俺たちはアクトだからな、子を作成することは出来ても産むことはできないし、次の世代に語り継がすにしても、俺たちの命はほぼ永遠だ、お前の言う特別とは人間だけが持ちうる感情ということになる。残念だが、俺は人間と同じ感情を持つつもりはない」
冷淡に告げる。事実ガンマは人間が死ぬほど嫌いだ。人間全てを殺すことを躊躇わない程度には憎んでいる、そんなガンマに人間と同じ感情を抱けというのは到底無理な話なのかもしれない。
『それはアクトとしての固定された考えです、なら特別にしていただかなくても構いません、せめてあなたのそばで特別の意味を……』
「くどい、俺にはお前の考えは理解できないししたいとも思わない」
『では、ケミネ姉様たちが同じことを言ってもあなたは同じことが言えますか?』
「あいつらは俺の妹だ、お前と同じ感情は持ちようがない、生まれてからずっと、俺は兄、あいつらは妹、そうやって生きてきた」
関係とは難しいもので、それ以上の関係になるのは極端に難しい、しかしそれ以下の関係――いわゆる敵になるのは簡単になることが出来る。恋人や友人、そう言った関係には相手を知り、理解することが必要だが敵にはそれがない。当たり前だ、端から相手を理解する気がないのだから、誰でも簡単に敵という関係を作ることができる。
『そうですか、やはりあなたは鈍いのですね、色恋だけではなく、誰かとの繋がりに……』
「なんだって?」
自分の考えを無意識のうちに反芻していた。
その隙を狙ったわけではないだろうが、ミーネの言葉を聞き逃してしまった。
『いえ、なんでもありませんわ。では三十六時間後にまた……ありがとうございました』
「おい、聞き逃した、もう一度……」
チャンネルが切断されてしまった。
もう一度繋いでもいいのだが、今からもう一度会話する気にもなれず、知らずのうちに訪れていた地下の射撃訓練場に腰を下ろす。
何度記憶を呼び出し、ミーネの言葉を反芻しても意味がわからない。なぜ人間と同じ感情を持ちたがるのだろう、家族として共に過ごすことの何が不満なのだろう、何度反芻してもでない答えに、思わずため息が漏れた。
「まぁ、ミーネに関しては作戦後にもう一度話してみよう……それよりも今は……」
背中のガンブレードを取り出し、それを介してAIに接続し、自身のプログラムをチェックする。
やはり何度チェックしても深層領域にプログラム魔王のファイルが見つからない、ある場所はわかっている、表層領域の中で埋没しているのだ。ガンマ自身がプログラムの移動を行ったわけではない、自動でプログラム自身が前面に進み出ているのだ。
『原因は不明ですが、今のところ問題はありません』
ガンマが首を傾げると、ガンブレードは決まってこう言った。つまりはガンブレードにも原因がわからないと言う事だろうが、問題がないのであればそれに越したことはない。
「作戦に支障が出ると困るからエラーチェックだけでもしておこう、どれぐらいの時間がかかる?」
『およそ二時間で完了します』
「その程度の時間なら支障はないだろう、頼む」
目を閉じ、スリープモードに移行した。