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アクト・ファミリア  作者: カミハル
五人の家族
3/50

母や妹

 任務を完了させ、地下の施設に帰還する。

 ギアを討伐するために結成された組織、ブレイカー。人間からは武力を持ったアクトの集団として疎まれ、地上のアクトからは同属殺しとして疎まれている。

「以上が、今回の件だ。ここ三十年で同じような内容の任務が頻繁に起こっている、ブレイカーからアクト法規制案を提出してどうにかしない限り堂々巡りだ」

 肩を竦め、目の前に座る女性に進言する。

 ブレイカー総責任者、ヤクモ・アクトリプス。

 黒いロングへアーと泣きボクロが特徴的な美女だが、デスクに堂々と置かれた日本酒の一升瓶が、そのイメージを打ち壊す。

「案なら提出しているわよ、結成された時からね。かれこれ五十年経つけれど未だに回答はなし、大方目を通す前にシュレッダーにでも掛けられているんじゃないの?」

 一升瓶を豪快に煽る母。

 外見をいじり、人間で言えば二十代前半の容貌だが、酒を煽る姿は人生に疲れた三十代後半に見えなくもない。

「一応司令官って立場なんだから酒はやめろ、いざという時に判断が鈍れば大勢の仲間がぶち壊されちまうって何度言えばわかってもらえるんだ?」

「相変わらず細かいことでうるさいわねぇ。まぁ母さんに任せなさい、少しでも家族たちの待遇がよくなるように企画だけは進めているから」

「企画ね……ったく、親父の願いが唯一叶っているのは俺たちプロトタイプが集結して生きていることだけだな。今頃草葉の陰で泣いているだろうよ」

 数十年経っても進展しない状況に苛立ち、つい吐いてしまった言葉。

 口に出してしまった瞬間に気づく。

 そんなことはプロトタイプ全員がわかっていること、それをわざわざ口に出して言う必要はない、わかっていたはずなのに。

「わ……悪い、そんなつもりじゃなかったんだ、気にしないでくれ」

 無理だろう。禁句をわざわざ口に出してしまったのだから、気にしないはずがない。

「いいのよ、ガンマの言う事ももっともだからね、でも――」

 素早くデスクから一丁の銃を取り出し、素早く照準をこちらに向けるヤクモ。

 咄嗟に右に飛ぶと同時に発砲音、弾丸は壁に当たり、小さな亀裂を走らせた。

「殺す気か!」

 叫ぶが、ヤクモは落ち着いた手つきで銃に弾丸を装填し、デスクの引き出しに戻す。悪びれた様子は微塵もない。

「言われても仕方がないけれど、兄妹がそれを口にするのはだめよ、さすがの母さんも少しイラッときたわ」

「イラッとで人を撃つな! 銃口を頭部に向けただろ、せめて首から下にしろ!」

「どこに当たってもケミネとシャインに治させるから問題ないでしょ?」

 ヤクモの表情に反省の色はない。慣れたものだが、これ以上の問答は無駄だろう、どうせ全部聞き流しているのだろうから。

「わかったよ、俺もケミネにガンブレードの出力調整を頼みたいからそろそろ行くわ。その後に三十六時間の休暇に入るから、任務が入ったら俺の端末に連絡をくれ。できれば任務は受けない方向で頼むぜ」

 報告し、司令室から退室、ドアの前ではレイが待機していた。

「待たせたな、これからケミネの所へ行ってガンブレードを見せてくるから、お前は自分の部隊に指示を出して休暇を取りな、何かあったら携帯にコールだ、じゃな」

 頭を少々荒く撫で、ケミネのラボへ向かう。

 とは言っても、この施設は地下の巨大空間に建設された、五階建てのビルだが、ガンマたちが居住や仕事場として使っているのは地下のワンフロアだけなので、司令室からケミネのラボまではそう遠くないし、レイの部屋はラボのすぐ近くだ。

 目的の場所に辿り着き、ノックもせずに入室する。

 工具やパーツが乱雑した部屋を軽く見回すと、奥のほうで端末を操作するケミネを発見した。

「ケミネ、忙しいところ悪いんだが、ガンブレードの出力調整頼むわ」

「あぁ? うっさいボケ、自分が高出力にしろゆうて注文したんやろ? 自分でどないにかしいや」

 頼んですぐに襲い掛かる言葉の刃。

 確かに先日注文したが、今のままではガンブレードのフレーム強度が足りないので、暴発してしまう可能性がある。吹き飛んだ腕は交換すれば治るが、痛いのは嫌なのでできるならばどうにかしてほしい。

「そもそも兄貴は扱いが荒いねん。現状では今のフレームが最大強度や、これ以上頑丈にしろとか言うたらマジしばくで?」

 金髪ツインテールヘアーのケミネ。

 日頃からラボに篭もりきりのはずなのに健康的な小麦色の肌、そしていつもと同じ紺色の作業着に身を包み、捲くし立ててきた。

「兄貴はいつもそうや、うちの都合も考えんと無茶な注文ばっかりしおってからに、先週やっけ!? 死神気取りのマントにフライングユニットを付けろ言うてたな、付けてから後悔したわ、高度一万メートルまで自動で飛ばしてそのまま落下させるシステム組み込んだらよかったってな」

「なんだよ、ずいぶん機嫌が悪いな? 大方人間からハッキングでも受けて手こずったってところか?」

 図星だったようだ、褐色の肌を真っ赤に染め、涙目でこちらを見上げてくる妹、どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

「……そうなんよ、聞いてや兄貴。あいつらずるいんやで、チーム組んで寄って集ってうちの防御プログラムをクラッキングするんや、しかもリアルタイムで対処してたせいで無駄な時間使うし、防御壁の再構築にさらに無駄な労力使うし、ひどいおもわん? だから足跡辿って一人一人のコンピューターにウイルス流したら今度は三チームで襲ってくるんや、そんなこんなで四十八時間、丸二日も時間を潰してもたんよ……」

 適当に聞き流しながら、終わるタイミングを見計らい、優しく肩に手を置き――

「それは辛かったな」

 ――優しい眼差しで慰めてやる。

「でもな、お兄ちゃん的には真面目にどうでもいいからこのガンブレードをどうにかしろ。一撃で大型トレーラー吹き飛ばす出力を注文した覚えはないんだ。さらに言わせてもらえば、フライングユニットを発注したら喜んで製作に着手したのはお前だろ? 憂さ晴らしにお兄ちゃんに当たらないでおくれ」

 優しく、嫌味のニュアンスも含めつつ慰める。どうでもいい、本当にどうでもいい時間を過ごした気分になった。

「反論はいらねぇぞ、俺の休暇リミットの三十六時間以内に調整しておけ、寝てないとかそんな文句はいらないし聞きたくないし、せっかくの休暇をお前と関わって潰す気もないから俺はこれで帰る」

 言いながら退室する。

 変に口を挟まれて時間を潰すのが嫌なので最良の選択と言えるだろう。

 ラボから怒声や罵声が聞こえるが一切無視しておく。


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