狂いだす歯車
「って、これガンブレードじゃねぇか!?」
「そやで? 実用性とかコストを考えたらこれが最適な姿やと判断したんや」
――確かに実用的なのは間違いないだろう。遠距離から射撃ができ、尚且つ接近戦にも使える武器。有用されるのは問題ないのだが、やはり何か寂しいというか、複雑な感情が湧き上がる。
「まあ特許をとっているわけでもないから仕方がないが……訓練状況はどうなんだ?」
ガンマの足を装着し、ガンマに視線を向けるレイ、答えの前に『意外と独占欲が強いですね』と、呟いた気がしたが、聞かないことにした。
「現在量産されている数は三十ですが、いずれもそれなりの成績を上げています、加えて今までの第二、第三世代とは違いケミネ姉さんが開発したAIとあたしが造りだした武装のおかげで戦力だけで言えば十年前のブレイカーよりも遥かに上回る戦力を保有していることになります」
レイの答えに感嘆するガンマだが、ケミネは別の懸念を抱いていた。
人間との戦いが終われば、どうするのだろうか。ケミネが開発したAIはあくまで戦闘を中心に開発された仕様になっている。戦いのなくなった世界に彼らや彼女たちが住む場所はあるのだろうか。
もちろん、それは口に出さず、考えるだけに留めるが、いずれ答えを出さなければならない命題になるのは明らかだった。
「完了しました……具合はどうですか?」
「ああ、悪くない」
手短に答え立ち上がる。
軽く腕と足を動かすが、以前に比べれば全身が軽くなったように感じた。こんな当たり前のようなメンテナンスも受けることができずにギアとなるアクトが後を絶たない、その現状を考えると、複雑ではあるが、今は都合がいい。
「ついでだから今ここで説明しておく」
服を手に取り、着る。その上にレイが持ってきてくれた愛用のマントを羽織り、作業の片づけを始める二人に視線を向け、告げる。
「今から一週間後に決行する」
ガンマの言葉に手を止め、息を呑む二人。あまりに突然の宣告に動揺しているのだろうが、ガンマ自身も今日決めたことなのだ。
「今日は街を見てきたが、近いうちにギアになるアクトを何体も見てきた、一週間以内にギアになるであろうアクトの数ははっきりとわからないが、その混乱に乗じてケミネがコンピューターを使い、人間の情報端末全てに声明文を送れ」
「まぁ出来んことはないけど……何て送るかはもう決めてんの?」
「当然だ、そしてそのメッセージは人間に送るものだ、そこで第二の矢を放つ。少し遅らせて全アクトのチャンネルにハッキングし、今度はアクトたちにメッセージを送る、アクトから人間に向けてのクーデターを呼びかけるのさ」
ガンマの計画はこうだ。
人間全体の目を逸らすために、注目を集めるメッセージを送る、そしてその間にガンマやレイの部隊が都市を襲撃する態勢を整える、最後にケミネがアクトにメッセージを送ると同時に襲撃、元より人間に不満を持つアクトは賛同するだろうし、そうでなくても敵に回ることはないだろう。回るとしても極少数、人間はガンマたちへの対応とギアへの対応、二つを同時に行わなければならなくなる。
「そう都合よく行くもんかな……そもそもアクトがギアになる時期なんてわからんのやし、他にも現行の第四世代がこちら側に就くとは考えにくい、楽観的に過ぎる計画ちゃう?」
ケミネの疑念ももっともだ、ガンマ自身もこの作戦には穴が多いと自覚しているが――
「正直、今すぐに襲撃してもいいんだよ、疑うなら都市部のセキュリティシステムにハッキングして確認してみな、どこにも対アクト用の防衛策は取られていない……人間共はブレイカーや第二、第三世代のことなんか覚えちゃいない、それどころか存在しているとさえ思っちゃいないのさ、そんな腑抜けた連中にここまでの小細工は必要ないとさえ思っている」
言われたとおりに確認するが、実際に施されているセキュリティは、災害や対人間程度のシステム、これならば襲撃し、一時間以内に主要施設を制圧すれば何の被害もなく都市一つを獲ることができるだろう。
「ちなみに人間は誰一人生かすつもりはない、人質、捕虜、そんなもんはなしだ。俺たちが通った先には生きた人間は一人も残さない、この国を完全に制圧した後は北の大陸、そして西、最終的にはこの星に生きる人間全てを滅ぼす。アクトだけの、アクトの世界が訪れる」
表情一つ変えず真顔で言ってのけるガンマ。
確かに、人間の体制が整う前にこの国全ての都市や主要施設を制圧すればガンマの野望も容易く叶うだろう。
「こんなことをしても、母さんや姉さんは戻らないが、俺が許せないのは、人様の家族を奪いながらのうのうと生き永らえ、アクトを豚や犬のようにこき使う、人間全てが憎い」
吐き捨てるように言うと、そのままマントを翻し退室するガンマの背中を、二人は黙って見送った。二人は気づいている、兄が復讐に心を奪われていることも、思考や思想がギアに近づいていることも――それでも二人は黙って兄に着いていくと決めていた。それがどんなに狂い、悲しい道だとしても。