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アクト・ファミリア  作者: カミハル
妹たちとそうでない者
26/50

新しい妹

 待っていた。ただ帰りを待つだけ。

 しなければならないことは山ほどあるのに工具も部品もないのでは、できることは何もない。それがここまでもどかしいものだとは知らなかった。

「ただいま」

 ケミネが地面をコロコロ転がりながら呻いていると、待ち人到来の声が聞こえた。

 彼女は急いで玄関へと向かった。

「よう、待たせたな。頼まれていたもの買ってきたぜ」

 ダンボールを軽々と放り投げられ、それを受け取る。かなりの重量だが、持てないほどではない。

「おおきに、これでようやく作業に取り掛かれるわ」

「ケミネ、お前ここ最近研究、開発、バグの修正のエンドレスループだろ? 一日くらい休んだらどうだ?」

「ええねん、どうせ機械が彼氏なんやし。そう考えたらうちって幸せもんちゃう?」

「ああ、幸せだな。頭の中にお花畑でも造ったのか? お前のAIはパラダイスでも映し出しているのか?」

 限りなく失礼な暴言を吐き、玄関に腰を下ろす。前の基地とは違い、三人の居住は普通の一軒家のような造りとなっている。前のように造ってもよかったのだが、家族の数が減ったのと、当初はケミネがずいぶんと落ち込んでいたので、レイが前の基地よりも、家族が多く触れ合えるようにと、進言した意見をそのまま取り入れて今の形となった。

「ガンマ兄さん、言いすぎです。ケミネ姉さんも想い人がいない為にああ言って強がるしかないのですから言葉を選んでください」

 か細い声で強力な皮肉を吐き出すレイの無自覚な言葉にケミネの後ろ姿が震えている。ガンマはそれを確認し、地下の施設へと降りるエレベーターに乗り込む。

 外見こそ一軒家だが、内部は様々な技術が使用されたハイテク基地。地下には前と同じ広大な地下空間と研究施設が備えられ、部下たちのシミュレーション訓練や実戦演習なども地下で行われている。それもこれも、人間との戦いの為に。

 地下に到着し、歩いて五分の射撃訓練場に向かう。ただの更地に的を置いただけの簡素なものだが、それでも訓練に使うのならば十分だろう。訓練密度は設備が決めるものではない、訓練する者がそれを決めるのだ。だが――

「ミーネ、頼むから遠距離支援砲をそうポンポンぶっ放さないでくれ」

 地下に着いた時から聞こえていた砲撃音。第二世代型だが、ケミネの技術で人間に施された規制ブロックを解除されたアクト、ミーネ・ガデンツァに軽い注意を促す。

 全長二メートル強の砲台を肩に背負い、的に向けて放つ少女は、ガンマの存在に気づいた様子もなく、的を凝視し、一心不乱に訓練を続けていた。

「ガンブレード、最低出力でいいから集束砲をあそこの砲撃女にぶちかませ」

 ガンブレードの切っ先を少女の背中に向けて指示を出す。その時始めて少女がこちらを向いた――腰まで伸びた黒髪を振り、肩に背負った砲台ごと――

「撃て! ガンブレード!」

『確認もなしですか!?』

 ガンマがトリガーを引くのと、ガンブレードがツッコムのはほぼ同時だった。目前まで迫る砲弾とガンブレードから放たれたエネルギー波が衝突し、中点で爆発を起こす。

 砂煙が晴れ、少女の姿を視認し一言。

「ミーネ……何度も言わせるなよ、照準、確認、トリガーだ。お前みたいな火力大爆発女に背中を預けていたんじゃ、戦場ではいくら命があっても……」

「ガンマお兄様!」

 ガンマの注意を聞いた様子もなく、武器を放り投げて飛びついてくるミーネ。とりあえず受け止め、運動エネルギーを利用して勢いを殺さず後方に放り投げる。

「お帰りなさい、お兄様!」

 着地と同時に地面を蹴り、背中に抱きついてくる。元々身体機能が必要な仕事に従事していたのか、格闘技術はレイに劣るが、それでも十分なスペックを有した少女。今ではそのスペックが疎ましかった。

「ミーネ、一体どうすれば俺はお前の抱擁を回避できるんだ? いっそあのまま投げずに地面に叩きつけていればよかったのかな?」

「ミーネのお兄様に対する愛の前ではパイルドライバーでもパワーボムでもフロントネックホールドでも無力ですわ」

「今度試してみるよ……」

 背中から抱きつかれたまま力なく言ってみる。どうやって地面に叩きつけられるほどの大技を回避するのか、お目にかかりたいものだが、ミーネならば本当に無力化しかねないので、試す機会はないだろう。

「それでお兄様、お一人でこんな場所までいらしたのですからついに御覚悟を?」

「……何の覚悟だ? 殺し合いなら勘弁してくれ」

「愛の契り……」

「ふん!」

 その場で前転宙返りを実行し、背中から地面に落下。通常ならば背中に抱きついていたミーネが下敷きになっているはずだが――

「まぁ、ミーネが上ですわね。お兄様ったら大胆」

「違う、馬乗りになるな、腕をロックするな、マウントポジションを取るな」

 ミーネと出会ってもう十年になるだろう。ブレイカーに所属していた者以外では第二世代アクト最後の生き残り、それがミーネ・ガデンツァ。十年前、都市が吹き飛ばされてすぐ、ガンマはヤクモの欠片が残っていないか探しに行った。

 結局、爆発跡は完全な更地で、パーツの欠片はおろか、戦闘の痕跡すら残されていない有様だった。

 途方に暮れ、帰還する途中で見つけたのがミーネの頭部だった。人間から逃げてきたのか、体は目も当てられない有様で、唯一残った頭部だけを持ち帰り、AIを修復し蘇生させたのがキッカケだった。

 記憶チップもなくし、唯一首から上の外部骨格とAIだけが残っていたのは幸運といえるだろう。

「とりあえずミーネ、降りろ。俺はお前の顔を見にきただけだ」

「そうやってまた焦らすのですね、また新たなお兄様の性癖を発見しましたわ。サドっ気、有りっと……」

 なにやら記憶容量に書き込んでいるので、鉄拳を脳天に打ち込む。メンテナンスの時にケミネがチェックするので、見られては何かと面倒だ。

「俺は地上に戻る。訓練もいいがたまにはそれ以外の事もしろ、ケミネの助手をするとかレイの訓練を観察するとか……」

「ミーネはただお兄様との愛の証を造りたいだけです!」

 無視しておく。AIを復旧したときからこんな感じなので、すでに諦めているがなぜこんな性格になったのかは未だに謎のままだ。

(とりあえず、ケミネの所に行ってメンテナンスでも受けるかな)

 これからの予定を考えながら、射撃訓練場を後にする。背後では未だにミーネが何か言っているが、これ以上は関わっても疲れるだけなので無視した。



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