十年の時間
基地を破棄してから十年。
黒い皮のズボンと赤いタンクトップにボサボサ髪の男と真っ白なワンピースに身を包んだ白髪にショートカットの少女が人ごみを歩いていた。
「ガンマ兄さん、どんな気分ですか?」
「ああ、胸糞悪いことこの上ない」
眉間にしわを寄せ、心の底からそう思っているのだろう、嫌悪感も露に周囲の人間を見回す。
あれからたった十年で全てが振り出しに戻った。結局第四世代のアクトも過剰労働でギアと化し、それを機関が討伐する。
唯一違うのは、討伐する機関がアクトによるものではなく人間によるものというだけだ。結局何も変わっていない、このままでは同じ歴史が繰り返されるのも時間の問題だろう。
「レイ、あれを見てみろ」
ガンマの指差した先には、街路樹を剪定するアクトの姿、首の刺青も剥げ落ち、服装もボロボロでみすぼらしい、同じアクトのガンマとレイから視れば、年単位でメンテナンスされていないのがよくわかる。
「今年中にはギアになりますね……」
「いや、すでに心の中は人間への憎しみで一杯さ。人間は気づくべきなんだよ、アクトもギアも人間と同じ、感情や意志を持っていることを……」
哀れむような目で見つめるが、それも一瞬のことで、横を通り過ぎる頃には普通の人間のように表情を柔らかくしていた。
「それで、ガンマ兄さんから見て……」
「だいぶ腑抜けてやがる、十年前のあれで現行第四世代以外のアクトは全滅したと思い込んでいるんだからおめでたいものさ」
今二人が人間の町にいるのは、単に偵察というだけだ。この十年、樹海に設立された基地で着々と戦力を整えていた。ケミネがプロトタイプや二世代、三世代のデータを収集し、新しいタイプのアクトを生産、それを他のアクトが量産し、ガンマとレイが訓練する。幸い広大な面積を持つ樹海に人間が足を踏み入れることはなく、十年経った今でも基地の存在はばれていない。
「ガンマ兄さんは……怖くありませんか?」
レイの質問に首を傾げる。
どこに怖いと思うことがあるのだろう、こんなに平和ボケした人間たちならば、今すぐガンマとレイだけで殺すことができる。ガンブレードが無いので町の壊滅とまではいかないが、今この場の雑踏にいる人間数十人を殺すのに五分とかからないだろう。
「もう一度戦争を始めて、唯一残されたあたしやケミネ姉さんを失うこと……怖くありませんか?」
「ないな、それにお前たちのバックアップはとってある、失うことはないよ」
笑みさえ浮かべながらの答え、やはりガンマのAIにバグが発生しているようにしか思えないが、検査の結果は異常なし、以前のガンマならばこんなことは言わなかった。バックアップがあっても今この場にいるレイとは違うのだ、代わりがあるなら問題ない。その考えは人間に近いものだが、ケミネとレイがそれを口にする事はなかった。
「そうですね、では基地に戻りましょう。ケミネ姉さんに頼まれた工具と部品も手に入ったことですし」
「ああ、そうだな。待たせるとうるさいし」
うんざりした表情で適当に答える。
実際待たせればうるさいのだから、ガンマがそういう反応になるのも無理はないだろう。
そうして二人は人間の波に揉まれながら、留守番をする家族の元へと帰宅した。