母の後姿を――
すでに百近い敵を倒したが、数を減らす気配はない。シャインにもらった爆弾も尽き、今は飛礫を利用した攻撃で凌いでいるが、銃の強度もエネルギーも限界に近い。
『新たに更新された情報です……三十分程前にシャイン様が戦死されました……その後シャイン様を手に掛けた敵は駆けつけたガンマ様によって討伐されたようです』
アリスの報告に一瞬だが血の気が引いた。
しかしそれも一瞬、今この場には自分しか居ないのだ、すでにガンマとレイの部隊も全滅し、敵の残存勢力のほとんどがこちらに集まっている。
周囲を囲む敵、銃口はこちらを向いている。
「そう、あっちにガンマがいるなら基地の安全は保証されたわね……」
いつでも仕留められるよう、敵が位置を変えている。三百六十度の包囲隊形から銃を乱射するほどバカでもないようだ。
「アリス、現在の戦況報告を……」
『敵の残存勢力はこちらに集結しています、あちらの敵はガンマ様から逃げるようにこちらに向かっていますので……』
アリスの報告を遮るように、巨大な光の渦が駆け抜け、敵と敵の防衛ラインを貫いていった。
『訂正します、残存勢力はこの周辺にいる人間数百名のみです』
アリスの報告に、思わず笑ってしまう。周囲の敵も今の一撃を見て、こちらの存在を意識から外してしまっているようだ。確かにそれほどまでにインパクトのある一撃だったので無理はないが――
「アリス、あたしのAIプログラムに自爆コードを送信、臨界稼動で周囲を纏めて吹き飛ばすわよ……それと、ガンマに軽く状況報告のメッセージを送っておいてちょうだい」
『……はい。あなたが決めたことならば従います、マスター』
目を閉じたヤクモの脳裏に家族と過ごした記憶が巡る。自爆の警告メッセージが流れてこないのは、アリスが気を遣ってくれたのだろう。
辛いことや楽しいことがたくさんあった。
あの人と再会したときは涙が出た。死んで、もう逢うことはないと思ったあの人に逢え、子供たちにも逢えた。
あとわずかな時間で自分の体も記憶も想いも全て消えてしまうだろう。それでも、子供たちがくれたコートと銃、長年連れ添ったデバイスAIアリス。そして愛するあの人がくれたこの体と今までの時間。全てを抱いて、子供たちを護るために死ぬことができるのだ。
「そうね、誣いて悔いがあるとすれば……」
『あたしでよければ聞きますよ?』
本当に最後まで気を遣わせてしまう。今まで本当にありがとうと、胸中で心よりの礼を言い――
「先週あたしたちの誕生日用に注文したシャンパン、家族みんなで飲みたかったわね」
口元に笑みを浮かべ、言い終えると同時に視界を眩い閃光が埋め尽くした。