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アクト・ファミリア  作者: カミハル
開戦と魔王
22/50

続く戦渦、開く悲しさ

「残存部隊に告ぐ、お前らは何としてでも通常武装の人間を叩き潰せ。目の前のこいつを地獄に叩き込んだらこの場にいる人間を皆殺しにする」

 オープン回線で戦場にいる全部隊に通達する。他の小隊もガンマが増援として来てくれたことに士気を上げたようだ。

「ずいぶんと余裕だな、お前たちアクトは俺たち人間様にスクラップとして認定されたんだ、ガタガタみっともなく抵抗せずさっさと自分から機能を停止すれば……」

 メスが挟み込まれた腕を踏み砕く。挑発のつもりだろうが今のガンマには通用しない。

『プログラム魔王、再起動完了しました』

 それを合図に地面を蹴る。いかにスーツの膂力が凄かろうと胴体や頭部の装甲は貫けないほどに硬くはないはずだ。

 横一文字に振るわれた剣を受け止めようと突き出した腕――それを確認し、斬撃の軌道を変え、わき腹に一撃を打ち込む。

 やはり装甲の強度は凄まじいが、この一撃でパワースーツの足が浮き上がり、地面を滑りながら吹き飛ばしたのだから、倒せない敵ではない。

 中の人間への衝撃が緩和されているのは間違いないが、こちらもパワースーツに劣らない出力を備えている、そう簡単には負けない。

「どうした? 俺たちポンコツを処理してくれるんだろう?」

 倒れたパワースーツの敵にゆっくり歩み寄り、ガンブレードを突き付ける。

「ひぅっ……あ、あうあ……バカな……」

 あからさまに恐怖を浮かべる敵に怪訝な視線を投げつける。今の一撃は確かに全力の一撃だったが、そこまで狼狽するほどのものではなかったはずだ。

「助け……ごめんな……やめ、殺さないで」

「まさか……自分で立ち上がれないのか?」

 口の端を歪め、ガンブレードを振り上げる。

 表情は見えないが、怯えているのは間違いない。

 振り上げたガンブレードをそのまま右手の肘部分に集中して何度も打ち付ける。鉄と鉄がぶつかり合う音が響き、それに負けないぐらいスーツの男も叫ぶ。

 何度目ぐらいだろう、ついにスーツの強度が限界に達し、生身の肉体と共に千切れた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 戦場に響く絶叫、それは敵の部隊にも聞こえたのだろう、遠目に見ても困惑しているのがわかった。

「おお、いい声で鳴くじゃないか。その調子でガンガン鳴いてくれ、ああまだ死ぬなよ? 姉さんと同じように四肢を引きちぎって最後に頭を踏み砕いてやるから」

 次は左腕の肘、右腕の肩、左肩、左足首、左膝、左付け根、右足首、右膝、右付け根、最後に首を飛ばして踏み砕く。

「ひゃは……ははっ、はぁっはっはっは!」

 楽しそうに哂い、次の部位にガンブレードを打ち付ける。いつしか戦闘は収まり、アクトと人間、両方の部隊がその惨劇に目を奪われていた。

 パワースーツの男の精神が壊れ、笑いながら引き裂かれていく様と、同じように笑いながらスーツを砕き、体の部位を引きちぎるガンマ。まさに咎人と地獄の鬼、そんな光景。

 半時間ほど続いたろうか、すでにスーツの男が息絶えたにも関わらず、ガンマは最後の部位である首部分を砕き、そのままガンブレードで一刀両断にし、頭部を踏み砕いた。

「ぎゃはっ!はぁっはっはっはっはっはっはこれが切り札か人間、この程度のものが切り札か!」

 視線を人間の部隊に向け、手振りで味方の部隊に防衛ラインの護衛に戻るよう指示を出す。

 ガンマに視線を向けられて、それこそ恐慌を来し逃げ惑う敵の軍勢、その背中にガンブレードの切っ先を向け小さく囁いた。

「いい切り札だ、こちらの士気を下げみんなの心に穴を開けるには十分な効果を発揮したよ、恐れ入った」

 切っ先に真っ赤なエネルギー球が顕現、その大きさは地上で撃ったジェノサイドインパルスの比ではなく、ガンマの視界を埋め尽くすまでに広がり――

「酷いな……人間って」

 ――トリガーを引き、直径二メートルの大きな光の奔流を放つ。

 地面を削り、周囲をカゲロウのように歪ませながら突き進む一撃は、多くの人間や逃げ遅れたアクトを巻き込み、地下の壁に直撃し、さらに突き進み、最後には地下の壁を吹き飛ばす威力で爆裂霧散した。

『敵戦力の六割が消滅、残り四割は二キロ離れた地点で交戦中の模様』

「今の一撃を見て逃げずにいるなら凄い勇気だ。賞賛に値するが、命を粗末にするバカだと罵ってやるよ」

 マントに仕込んだ最後のエネルギー補充液を一気に飲み干し、空いたパックを投げ捨てる。

 そして思い出したようにシャインの残骸から記憶チップを漁る、血や泥などが付着しコピーは不可能に見えたが、一応再生するため、ガンブレードのグリップにはめ込む。

 脳内に様々な映像が流れては消えていくが、いずれもノイズが酷く、正確な情報を得るには至らない。

 唯一得たのが、パワースーツは量産態勢が整っていないことだけだった。

 そして記憶の最後にメッセージが残されていた。

(母さん、ガンマ、ケミネ、レイ……ごめんね……)

 そのメッセージを最後に、記憶チップは全データを抹消してしまった。もう二度と、シャインが見て感じたものを共有することはないだろう。

「気にするなよ、姉さんはよく頑張ってくれた。俺たちが必ず、アクトの呪われた戦いを終わらせてやるさ」

 優しく微笑みガンブレードの切っ先をシャインの残骸に向け、トリガーを引き、消滅させる。姉の残骸をこれ以上、死が支配する場所に横たわらせてはいけない、そう思ったから。

「さて、姉さんの記憶によると母さんも戦っているようだ、まぁ母さんのことだから問題は……」

 一人呟き終える前に、高出力の爆発が起こり、ガンマの体を爆風が叩いた。

 


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