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アクト・ファミリア  作者: カミハル
開戦と魔王
20/50

最期に見た夢

 その頃、基地周辺ではシャインを含め五十の部隊が敵を迎え撃っていた。

 基地までの距離五百メートル。これ以上の進軍を許せば基地自体にも被害が出る、すでに破棄が決定した基地でも長年過ごしてきた場所、そう簡単に壊されたくない。

「第一第二小隊は右翼から敵陣営を崩せ! 正面はあたしが行く!」

 メスにエネルギーを込め投擲。敵の防御壁を貫き、喉に刺さるメス。アクトと違い人間は急所に損傷を負うとそれが致命的なダメージとなる、それが唯一の救いだった。

『第一第二小隊全滅! 右翼の敵がそちらに回りました!』

「馬鹿! せめてもう少し――」

 叱咤する前に弾丸が腹部を貫く。

 続いて無数の弾丸がシャインを襲うが、ギリギリのところでそれを回避、戦闘に支障はない。

『敵後方からランチャーミサイル! 基地の第四フロアに直撃します!』

 通信と同時に背後の基地上層のフロアが消し飛び瓦礫が地上に落ちてくる。

 基地の警護に当たっていた部隊の一部が下敷きになりこちらの戦力をさらに削った。

『現在敵の数は千と少し、さすがに状況は厳しいですな?』

「うるさいわよファイン、この程度でもう泣き言を言っちゃうわけ?」

 軽口で返すが、ファインの言うとおり状況は最悪――むしろ絶望的といってもいいかもしれない、基地周辺エリアの戦力は百を切った。対して敵の数はまだまだいるのだ、こちらに進軍してきている敵の背後にはまだ二千の敵、それらから時間を稼がなければならないのは骨が折れる――

『危ない!』

 ――ファインの声と同時に背後に気配。

 しかし気づいたときには遅く、何者かに右腕を掴まれ、布切れでも扱うかのように地面に叩きつけられてしまう、この一撃で強化骨格に損傷を負ってしまった。

「あ……らら、これがパワースーツってわけね……なるほどこれは……」

 自分にこんな傷を負わせた敵に視線を移すと、そこには真っ赤な甲冑に身を包んだ二メートル程の敵がいた。もはや戦闘能力はアクトと同等、下手すればそれ以上かもしれない、今の一撃を易々と制限無しで繰り出せるのならば、アクト側に勝ち目はないが――

「量産が難しいみたいね……」

「御名答だ、このスーツは制御が難しくてね、まだ試作の段階だが、この規模の敵戦力ならば問題はない」

 首を掴まれ、宙吊りにされてもまだ、軽口を叩いてみせるシャイン。次にもう一度地面に叩きつけられれば、比喩ではなく全身がバラバラに四散してしまうだろう。

 パワースーツから聞こえた男のセリフを聞き逃さず記憶容量に叩き込む。もしも、ここで自分が壊れても、誰かが記憶チップを回収してくれれば、重要な情報となる。

「では、さようならだ。ジャンク品のお姉さん」

 勢いよく振りかぶり、地面に叩きつけられる間際――

「失礼な、うちの姉貴はまだまだ新品だぜ? 百年と少しずっといい相手が見つからないんだ、あんたが相手してやってくれるか?」

 ――パワースーツの手首を掴み、不敵な笑みを浮かべるガンマ。同時にガンブレードの切っ先をスーツの背中に押し当て――

「まぁ、姉貴がよくても俺は嫌だけどな、あんたみたいな屑野郎は!」

 ――切っ先から至近距離でのエネルギー弾を射出し、スーツの中にいた人間ごと消し飛ばす。相変わらず出力だけならば、家族の中で一番だろう。

「ガンマ……あんた……なんで?」

『強化…………の……プログラム…………』

 脳内に警告音が絶え間なく、ノイズ交じりで鳴り響いているが、目の前にいる弟の声ははっきりと聞こえた。

「いやなに、様子がおかしいんで戻ってきたんだ、母さんも一緒だ。もちろん向こうの敵は俺が片付けた。搬出作業も終わってレイとケミネも一緒だ、さぁ行こうぜ」

 見回すと、母さんや妹たちも笑顔でこちらを見下ろしていた。

「シャイン姉さん、あたしとケミネ姉さんで急いで作業を終えました……急ぎましょう」

「そやで姉貴、うちらがんばったんやから帰ったらたっぷりと褒めてや」

「そうね、みんな頑張ったことだし、帰ったら母さんの特製エネルギー補充食を造ってあげるわ」

「ってなわけだ、敵も全滅したし、もう俺たちを脅かすものはない、さっさと帰ってまた、家族みんなでのんびり暮らそうぜ」

 みんながこちらに手を差し伸べてくれている。その手を掴みゆっくりと体を起こし、これから訪れる平穏な日々を思うと涙が零れた。

「ええ、帰りましょう、みんなで――」

『警告、強化骨格大破、主AIの起動困難なためプログラムを停止します』

 目を見開くと、空が見えた。

 地下で空が見えないのでは味気ないと、ケミネが言ったので造ったホログラフ投射映像の空。

 みんなの姿はない、体を動かそうにも動かない、目の動きだけで横を見ると指の間にメスが挟み込まれた腕、自分に見えるのは唯一それだけだった。

 そしてようやく理解する。ガンマが助けに来てくれたのも、母さんや妹たちが手を差し伸べてくれたのも、全ては夢、幻。

「ほう? 五体バラバラでもまだ意識はあるようだな?」

 不意に空を覆う影と耳障りな声。

 音声にもノイズが混じりだし、視界も段々とぼやけてきたが、パワースーツを装備した敵がこちらを覗きこんでいるのがわかった。

「あ……いに……くね…………あたした……ちは……人…………ごときに……」

「ああ、もういい。ジャンク品の耳障りなノイズを聞くのが趣味ってわけじゃないんでね、悪いが壊れてくれ」

 スーツの頭部が視界から消え、次いで移ったのは足の裏。それが段々迫り――

(母さん、ガンマ、ケミネ・レイ……ごめんね……)

 ――胸中での呟きが、彼女の最後だった。



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