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アクト・ファミリア  作者: カミハル
五人の家族
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ギアを狩る兄妹

「二番と三番隊は人間を連れて避難しろ、一番隊は俺と敵の殲滅に当たれ!」

 ――世界に拡がった家族は、互いに戦っていた。

 人工知能――AIのバグや不良動作で人間に牙を剥くギアと、そいつらから人間を護るために戦うアクト。

 製作者が見ればどれだけ嘆き、悲しむだろうか。子供たちが兄弟喧嘩の末に殺し合う。  

それを当然に思う人間たちにも、息子同士で戦い合うアクトとギアにも絶望し、悲しみの慟哭を上げるのかもしれない、いや正気を保てるかどうかも怪しい。

 そして現在、数十の人間を人質に金属の製造工場内で暴れるギアも、元の原因は過剰労働の結果、暴走を起こしたのだが、それでも彼らは人間に危害を加える敵となった。

「やりきれないねぇ……」

 部下に指示を出し、暴走で建物自体を壊そうと暴れまわるギアを遠目に眺めながら、ポツリと呟く。

 原因が人間にあろうと、結局は暴走を起こしたギアが悪と断じられ、裁かれるのだ。

「ガンマ総隊長、二番と三番隊から避難完了の報告が入りました。人間側の被害、負傷者は十二名、死者が八名とのことです」

「報告ご苦労。レイ、無線で二番隊と三番隊に待機を命じろ、一番隊は戦線離脱し別任務が来た時のために帰還。あとは俺とレイで片付けるぞ」

 部隊総隊長、ガンマ・アクトリプス。

 そして副隊長のレイ・アクトリプス。

 二人は、初期型の規制がかかっていない頃に開発されたアクト、他の部下に比べて、状況判断などの選択が早く、一番人間に近い。

 規制のかかったAIを積んだ現行世代のAIでは、指示を受け入れ、その通りに行動するのが精一杯だろう。

 レイに指示を伝え、目の前でギアを食い止める部下たちに撤退命令を出してもらい、敵を見据える。

 ボサボサの腰まで伸ばした黒髪と、死神のような漆黒のマントを身に纏い、背中から顔を出した剣を握り、小さく笑む。

「レイ、お前は周囲の雑魚を片付けろ。俺はでかいのを片付ける」

 白髪のショートヘアーが首を縦に振る動きに合わせて小さく揺れる。

 白い髪に、純白のローブ、その両手には手の甲に光沢を放つ石がはめ込まれた皮手袋、華奢なレイには無骨な武器。

 彼女は言葉一つ発することなく、首を動かす動作だけで了解の意を示し、暴れまわるギアの下へと歩き出した。

 それを見送り、ガンマも自分の標的に視線を移す。

 工場の中心で突っ立っている大柄な体。

 ガンマやレイ、そして周囲で暴れるギアたちとは違い、人の姿を完全には模していない分、その肉体はガンマの倍、三メートル強の高さ。重量物を運搬する作業がメインとなるため、骨格や筋肉などもそれ相応のスペックを積んでいるだろう。

 目の前まで近づくがやはり大きい。

 ガンマはギアの顔を見上げ、尋ねた。

「お前が今回の首謀者だな? 俺としては同胞をぶち壊したくない、できれば穏便に事を終わらせたいのだが……」

 言い終わるよりも先に、拳が飛んできた。

 人間の頭部を上回るサイズの拳は地面のコンクリートを易々と砕き、周囲の地面に亀裂を走られる。

「ふざけるな、犬畜生が。昨日はボブがプレスに挟まれ、壊された。今日はリックが裁断機に巻き込まれた。ろくにエネルギーの充電もしないから判断能力が鈍り、事故を起こす。しかしどうだ? 人間はそんな仲間たちを労い、悼むどころか処理が面倒だと言ってどぶ川に流した。教えてくれ、俺たちはどうすればよかった、俺たちはどうすれば壊れずに済んだんだ!」

 ギアにならなくても人間に壊され、ギアになればガンマやレイのような、ギア討伐部隊ブレイカーに壊されてしまう。

 このような問いかけをされたのは初めてではない、今まで何回と同じ問いかけをされ、問いかけの数だけ、ギアを手に掛けた。

 その問いかけは、ガンマにとっての命題だが、その答えは多分、出ることは無いだろう。

「俺たちは人間に使われる犬畜生さ……」

 大剣を抜き、目の前のギアに切っ先を向ける。

 分厚い刀身に、柄に取り付けられたトリガー、銃と刀を融合させたらこうなりましたと言わんばかりの武器、ガンブレード。

 切っ先には、人間の指が一本楽に入るだけの穴――銃口がギアの頭部に照準を合わせていた。

「俺たちもお前たちも、人間にコキ使われる犬だ。従順に従い、牙を剥けば殺される。泣き寝入りが正しいとは言わないが……」

 トリガーに指をかける。

 目の前のギアは、抵抗する行動を起こすことなく、悲しそうな目でこちらを見下ろしていた。

 頼むからそんな目で、見ないでほしい。

『エネルギーの充填と全発射シークエンスをクリアーいつでも撃てます』

 刀に搭載されたAIが告げる。

 気が向かない、出来れば引き金を引きたくない。言葉だけでもいい、謝罪の言葉を放ち投降してほしかった。

「俺たちは……間違っていない!」

 それがギアの最後の言葉だった。

 トリガーを引き、放たれた青い熱波がギアの頭部を吹き飛ばし、工場の天井に大穴を穿ち、大空へと消えていく。

 轟音と揺れを起こし、倒れる巨体を悲しげな眼差しで見下ろし、視線を移動させる。

 レイも暴れていたギアの片づけが終わったようで、遠目にこちらを見つめていた。

「任務完了だ、人間たちの救急隊を呼び撤退するよう、部下に命じておけ」

 短く指示を出し、外に追い出す。

 ガンマはもう動くことの無い巨体のそばに膝をつき、背中に埋め込まれた記憶データの入ったチップを回収し、再び銃口を向けて先ほどよりも加減した一撃を発射――それでも巨体を跡形もなく消滅させた。

 ガンブレードの刀身がスライドし放熱の蒸気を放出するのを見届け、チップを強く握り締め、囁く。

「お前の記憶はいつか他の仲間を助けるだろうよ。お前たちは間違っていない、少なくとも俺はそう思うぜ」

 チップを保護カプセルに収容し、ポケットに入れる。放っておけば、この工場の責任者が記憶チップを抹消し、証拠を隠滅するだろう。だから、ガンマが先にチップを回収し、後に責任者に聞かれても、ギアを完全消滅させたため、記憶チップの回収は不可能だったとしらを切れる。

 当然、このチップは過剰労働やアンドロイドの不法投棄の証拠として法廷に提出する。

 そうすれば、ギアに対する人間の扱い方にも規制が出来るかもしれない――五十年近く続けても、未だに何の成果も上がっていないので、期待はできないが。

「息子たちの成れの果て……父さんが見たらさぞ嘆くだろうな……」

 呟き、工場を後にする。

 任務は終了したが、あと何度こんなことを繰り返せば、この苦しみから解放されるのだろう。今は、初期型アクトに搭載された、感情学習型のAIが疎ましかった。



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