急がれる引越し作業
すでに物資の八割は輸送を終えた。
何体かのアクトはすでに樹海で基地の建造を始めているだろう。
それよりも気がかりなのは地下の基地だ、先ほどから急速に作業速度が増している。それに加え、こちらの方に補充される人員の何体かは負傷をしているようだった。
事情を聞いても答えられないで済ませられてしまう。部隊長にも答えられないと言うのならば、最高責任者の母さんが何らかの情報規制を敷いたと言う事なのだろうが、こちらに人員を回すと言う事は作業を急ぐと言う事。
「各員作業のペースアップを要請」
囁くように自分が指揮下に置いている全作業員へと通達し、それぞれの返事を聞くと、視線を都市部の方へと移す。
先ほどまで頻繁に起こっていた爆発――おそらくガンマ兄さんだろう――が納まっている。それと同時に都市部上空に大型の飛行船。
『ありゃ輸送型だな、しかし解せねぇ、ガンマが地上での陽動を止めたと言う事は地下施設に敵部隊が押しかけていると見て間違いねぇだろうが、こちらへの増員などを考えると九割方地下施設の戦力は放棄されたってことだろうな』
「ええ、そして敵の足止めをして作業終了と同時に撤退、そういう手筈でしょうね」
レイの予想はほぼ当たっていた。
唯一違うのは、自分の母と姉がほぼ単独で直接足止めをしているという事だけだ。
「いずれにせよ今は作業を急ぎましょう、何かあっても母さんや姉さんならどうにかしてくれるわ」
囁く声は風に消されそうなほどか細いが、それでも自分の皮手袋の石に搭載されたAI、ギガントにははっきりと聞こえたようだ。
『お前の家族はどいつもこいつも常識ハズレだからな、人間なんかバラバラにしてくれるだろうぜ』
未だに都市部上空を旋回する輸送機から視線をはずし、輸送作業の手伝いをしに森の中へ戻る。今自分にできるのは与えられた任務を最優先でこなすことだけだから。