殲滅の次は?
その頃地上では――
都市部のライフラインである電力工場前に集まる警備員たちと、それに対峙するガンマ。
正面ゲートを護るように何十もの人の壁を並べ、ガンマに向けて殺気を放つが、当のガンマは気にした風も無く、それを見つめていた。
『この工場にもアクトが警備に当たっていたはずですが、それらしき反応はありませんね、おそらく……』
「すでに破棄され、今頃は溶鉱炉の中かスクラップ工場か、どちらにせよ関係ない」
ガンブレードの推測にガンマの答え、すでに壊されてしまったアクトに何の感情も湧かない、代わりに人間自らが、己を護る壁を切り捨てたことを思い知らせる。それだけを考えていた。
ガンブレードの切っ先を正面ゲートに向け、意思を込める。込められた意思はそのままガンブレードのグリップに装備されたセンサーに伝わり、エネルギー発現のプロセスを構築する。
「ガンブレード、ジェノサイドブラスターを発射する」
『了解、ジェノサイドブラスターの発射シークエンス、ゲートスリーまで完了』
切っ先に真っ赤なエネルギー球が構築され、それに触発されて周囲の大気も熱を持つ。
『エネルギーチャージ完了、発射シークエンスフォー到達』
そのエネルギー球を目の当たりにし、警備員たちが動き出す。
ガンマに特攻し、発射を防ぐためではない、ただ助かりたいがだけのために蜘蛛の子を散らしたように散り散りに逃げ出す見苦しい眺めに、ガンマの指先がトリガーにかかる。
「ジェノサイドブラスター・タイプ・インパルス。一人も残すな、生かすな、しくじるな」
トリガーを引く。
人間の頭部ほどまで膨れ上がったエネルギー球から光の帯が無数に放たれ、逃げ出した警備員たちの体を貫く。
それこそ一つの光が二人、三人、あるいは四人と、それぞれが急所を貫き、致命傷の一撃。緻密な操作と貫通性を備えた光の帯は、文字通りその場にいた人間を全滅させた。
発射終了後、刀身がスライドし放熱を行う。
これほどの出力だ、内部に溜まった熱も相当なものだろうが――
「悪いがもうひと働きだ、目の前の不愉快な建築物を破壊する」
『問題ありません、集束砲ならばあと一発撃っても堪えられます』
――最後の仕上げが残っている。
電力の供給源が無くなれば、人員的ではなく施設的な面で人間に多大なダメージを与えることが出来る。どうせ自分たちは基地を移転するのだ、電力など気にする必要はない。
ガンブレードの切っ先を建築物にセット。
同じように意思を込め、切っ先に真っ赤なエネルギー球を顕現させる。
「単純砲撃で構わない、復旧できないまでに動力炉を跡形もなく吹き飛ばせ」
『内部の構造データを検索…………動力炉は地下です、地上からの水平砲撃では動力炉の大破には至りません』
「なら、飛ぶぞ」
地面を蹴り、飛翔。
これによりさらなる負荷がデバイスのガンブレードにかかるが、まだ問題はないはずだ。過剰加熱の警告が出るまでは酷使するしかない、いかにプロトタイプと言え、武器デバイスやオプションユニットがなければただのアクト、人間を上回る運動能力は備えているが、数百の敵相手に立ち回ることはできない。
「砲撃終了後スリープモードに強制移行、放熱終了後に再起動を許可する」
『了解しました、集束砲発射シークエンスの完了を告知、いつでも発射可能です』
「なら、頼む」
トリガーを引き、真っ赤な光の奔流が空中から施設を襲う。地面を抉るような高出力の一撃。例えどんなに頑丈な装甲で護られていても、この一撃の前では無力。
当然、地下の動力炉は大破し、漏れ出したエネルギーが地面を伝い、施設の周囲を巻き込む爆発を起こし、空中から見下ろせば綺麗な放射状の荒野を拝むことができた。
『これよりスリープモードに移行します。強制起動の際は任意のパスワードを入力してくださいますようお願いします』
ゆっくりと地面に降下しながら、ガンブレードのメッセージを聞き流す。
これで目的はほぼ達成した。
着地し、空を見上げ黙考する。
これより再び人間を狩るか、一度基地に戻るか。現段階で重装備の人間部隊に遭遇していないと言う事は、やつらは同族――人間の保護よりもブレイカーの殲滅を選んだ可能性が高い。地下施設にはヤクモやシャインがいるので問題はないだろうが――
「とりあえず、プログラム魔王をスタンバイ状態で待機、六時間以内に起動指示がなければそのまま終了してくれ」
――今後の行動を決めるには魔王プログラムを停止させる必要がある。
一度感情を消してしまえば、それこそただの殺戮兵器と化してしまうので、プログラムの停止、及び強制終了の権限だけは残されていた。それが幸か不幸かは置いておくとしても、今後の行動だ。
目を閉じ、地下にいるであろうヤクモにAI通信を試みるも、通信エラー。同じようにシャインもエラー、レイは距離が遠すぎる。ケミネには繋がるようだが、通信状況だけで地下の状況は把握できた。
おそらく、ヤクモとシャインが戦闘に赴き、ケミネとレイが移転作業を続けている。大まかな事情はわからないが、どうやら一度地下に戻る必要があるようだ。
「飛行ユニットはガンブレードのスリープと同時に機能を停止、ここから一番近い地下へのルートは…………十五キロ先か」
地面を蹴り走り出す。
マントに仕込んであるエネルギーの補充剤を使えば、ここでエネルギーをロスしても問題はないはずだ。
誣いて問題があるとすれば時間。戦闘が始まっているのか、だとすればどれぐらい前からなのか、地下基地の詳しい状況まではわからないので不安要素は多いが、今はできるだけ急ぐしかない。
(人様の家族を一人でも奪ってみろ人間、その先に待つのは種の絶滅だ)