シャイン出撃
その頃、シャインとケミネは地下道を進み、資材を運んでいた。
とは言え、作業用のアクトや、移動用のカタパルトに荷物を載せ、射出しているのでそれほどの重労働ではないが、なにせ量が多い。
アクト生産用の機材やメンテナンス機材、他にも開発データや個々の品まで様々だ。
「まいったなぁ、全部搬出するまで数時間はかかってまうで」
次々と運び込まれてくる物資にケミネがぼやくが、そうしたところで荷物が減るわけでもない。
「口を動かさないで手を動かしな、運び終わったらレイに合流して移動、建造しなきゃならないんだ、完成までは数年かかるよ」
「うわぁ、ほんなら樹海に仮設基地の建造からはじめなあかんなぁ、でもなんや家族で引越しって感じでワクワクせぇへん?」
「しないわよ、どちらかというと夜逃げでしょ? ワクワクとドキドキは――」
眉間に電気が走るような感覚。
自分を貫通し、背後をポイントするレーダーサイトを肌で感じればこうなるだろうか、何にせよシャインは気づいた。
(選定通信……ケミネが気づいた様子は無い……と言う事は部隊召集、異変!)
立ち上がり、手荷物をケミネに押し付ける。
もしも敵が攻め込んできたのならばケミネを連れて行くわけにはいかない。戦闘力の点ではなく、技術者技能のアクトが二人も欠けてしまっては後に劣勢に追い込まれてしまう。
「ケミネ、あたしは少し自分の荷物を整理してくる、あんたはここで作業を続けなさい。いいわね、これは命令よ、絶対にこの場を離れないこと!」
念を押し、自室へと走る。
この状況で自分たち以外のアクトに選定通信を行ったと言う事は、おそらくガンマやレイにも連絡は行っていないだろう。
そして、ここまで的確な――ノイズの欠片すら拾えない精度で――選定通信を行えるのは母さんのデバイス、アリスだけ、ならば母さんが前線へ赴こうとしている。
「させないわよ! 家族が一人でも欠けるなんて許さないんだから!」
自室のデスクやクローゼットを漁り、装備を整える。
両手の指先にセンサーが搭載された皮のグローブと大量のメス。
全て医療用だが、アクトの体に使用するメスだ、人間が食らえばそれなりのダメージは負わせることが出来るだろう。
メスを白衣に仕込み、マントのように翻す。
今まで散々ガンマのマントを馬鹿にしてきたが、次の機会がもしあれば謝る必要があるだろう。格好はともかく、収納性や機能は優れていると認めざるを得ない。
『お久しぶりです、ご主人様』
「久しぶりね、ファイン。悪いけれど頼めるかしら?」
『ご主人様の為ならばどこまでも』
ファイン自身も感じ取っているのだろう、自分の主が自分を使い、このような言葉をかけると言う事は――
『逝く時は共に逝きましょうか? それとも先にお待ちしていましょうか?』
「できれば両方とも生存の方向で行くわよ、今回は長い付き合いになりそうだわ」
ガンマと似た不敵な笑みを浮かべ、自室を出る。
母さん一人には任せられない。
(医者が患者を治すだけの存在とは思わせないわよ)