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アクト・ファミリア  作者: カミハル
開戦と魔王
13/50

思い出の場所

 ガンマは久しぶりの匂いに安らいでいた。

 地下施設からエレベーターで地上へ向かい、老夫婦が住んでいた家の椅子に腰掛け、小さく息を吐く。

 貧民街に上がってから、親しかった者たちに一人も合うことなく老人宅へ、もうこの段階でわかっていた。

「出て行けぇ!」

「バサラ夫妻を殺したポンコツは帰れぇ!」

 外から聞こえる罵詈雑言に耳を傾け、ガンマはゆっくりと目を閉じた。

『よぉガンマ。またじいさんのところかい? マリムも喜ぶ、さっさと行ってやりな』

『ガンマ、久々にカードで勝負だ! この間の負け分は絶対に取り返すからな』

『よぉガンマ』

『おおいガンマ』

『ガンマ兄ちゃん』

『小僧』

『これで新しいパーツが……』

 目が見開かれた。

 この貧民街での呼ばれ方や人々を思い出し、最後に現われたのは大好きだった者の言葉。

「皮肉なもんだな……俺の大事だったものが人間で、それを奪ったのも人間……ギアのせいだとは言わせないぜ」

 アクトが暴走を起こしたのは、人間がアクトに過剰労働を強いたせい、人間がアクト擁護の規制をことごとく却下したせい、人間が、全て人間が悪いんだ。

 ガンマの中では、それが全て。

 護る者のいない人間なら――

「全て滅ぼす」

 ――ガンブレードを抜き、未だに収まらぬ苦情に不敵な笑みを浮かべる。

 ガンマの役目は地下施設で基地移転の準備を進めている姉や妹たちの陽動。

 ここで貧民街ごと地下へ通じるエレベーターを壊してしまえば、人間が攻めてくることはできないし、他にも出入り口があったとしても、地上で破壊を続けていればこちらに意識が行く。

「兄妹の邪魔はさせねぇ」

 貧民街で触れた優しさや温かさは忘れろ。

 それは必ず邪魔になる。

 躊躇するな、人間は全て敵、蹂躙し――

「破壊せよ」

『プログラム魔王発動、AIの一部回路を遮断します』

 ――プログラムを発動、同時にガンマの中で一切の感情が薄れていくのを感じた。

 悲しみも思い出も何もかもが遠い昔のように感じる。姉や妹たちの陽動とかそういった建前も全てが消える。

 後は体が動くがままに殺すだけ。発動したプログラムが感情を上書きしていく。

 扉を蹴破り、文字通り魔王が人間の前に現われる。

 今までの罵声が嘘のように消え、皆が一様にガンマを凝視していた。

「くっ、ガンブレードを出してやる気満々かよ! いいぜ、たかがガラクタが人間に勝てると思う――」

 若者の一人が威勢よく一歩踏み出すと同時にガンブレードで横薙ぐ。

 若者の体が軽々と宙を舞い、頭から地面に落下。同時に響いた鈍い音で、誰もが若者の死を理解しただろう。そしてガンマとの戦力差を――

「くっ、ここで止めなきゃどの道殺される! 怯むな、数でかかれ!」

 ――その言葉に勇気付けられたように駆け出す住民たち、しかし結果は無惨なものだった。

 ある者は体を剣で貫かれ絶命し、ある者は五体を砕かれ、止めも刺されることなく地面をのたうち回る、まさに地獄絵図。

 それでもガンマの足が止まることはない。

 マントを広げ、背の方に仕込まれたフライングユニットを起動させる。

『デバイス、ガンブレードを承認。フライングユニットを起動させます』

 音声と共に、ガンブレードの刀身に光の筋が走り、浮力を生み出し高度を上げる。

 一定まで飛ぶと制止し、貧民街を見下ろした。懐かしい町並み、温かかった住民たち、その全ての思い出はAIの深層領域の中に封じ込められている。だから、彼は囁いた。

「消えてしまえ……」

 ガンブレードの切っ先に、青白い球状の光が現われ、貧民街に打ち込まれる。

 軌道上に放電現象を巻き起こし、ピンポイントで貧民街の全てを消し去る一撃。

 それをしばらく眺め、それにも飽きると高度を下げて着地。市街地の方向へと歩き出した。その相貌にあの日の、貧民街で見せたやさしい笑顔はもう、なかった。




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