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アクト・ファミリア  作者: カミハル
開戦と魔王
12/50

再会の結末

 その日、彼は絶望していた。

 妻や子に囲まれた五年間は実に幸せな毎日だったといえるだろう。

 しかし、幸せは難なく崩れ去った。

 現段階で世界に送り込まれたアクトは数十万に及び、世界中に広がった。

 しかしどうだろう、まるで奴隷でも扱うかのような仕打ち、廃棄に困りどぶ川に流される家族。

「これが果て……これが現実……」

 自分は絶望していた。

 明るい未来を築くと信じていた子供たちがゴミのように扱われ、壊されていく。

 このままでは自分が死んだ後にもアクトは生産され、今と同じ――下手すれば今以上に辛い仕打ちを受けるのは明らかだった。

「ガンマ……家族の中でお前だけが男の子だったな……俺は本当に嬉しかったよ」

 端末を操作しながら、背後のカプセルに視線を移す。

 生まれたままの姿で、全身に通信配線を取り付けられたガンマの姿を、悲しみに満ちた瞳で凝視する。

「本当にごめんな……無力な俺を許してくれ……」

「博士……どういうことですか?」

 突然の問いかけに振り向くことなく端末を操作し続ける。振り向く必要はない、誰なのかはわかっている。

「リオン君……君はもう僕の助手ではないのだから、こんな奇人に関わる必要はもう、ないんだよ……」

「そうもいきません。ヤクモさんに聞きましたよ、ガンマ君を連れて一年も研究所に篭もりきりだと……」

「放っておいてくれないか? 僕はもう嫌なんだ、他人に家族を壊されるのは……元は家族を事故で失い、その寂しさを紛らわせるための研究が、雑用や軍事目的に使われている現状にはもう耐えられそうにない……」

 虚ろな眼差しでモニターに並ぶ数式をみつめる。完成まであとわずか、それは確信している。

「では、博士に最後のメッセージをお伝えします」

 最後、その単語は気になったが、振り返ることなく作業を続ける。

「あなたの家族はヤクモさんの運転ミスで崖下に転落したのではありません、正面衝突しそうになった車を避けようとして……」

「それで?」

 興味は無い、そんなありふれた理由で家族が死んだのは許せないが、今の自分には家族がいる。世界に散らばり、苦しむ世界中の家族と、家族を模したアクト。

「世間から嘲笑され続けても、あなたの研究を手伝ったのはその罪滅ぼしを兼ねての先行投資です」

 一瞬だけ、操作の手が止まるが、本当に一瞬の事ですぐに作業を再開、あと少し……あと少しで完成する。

「事故の後、遺族が人造人間の開発を始めたと聞き、僕はその助手に志願しました。そして悲しみにくれるあなたを目の当たりにした……」

 完成した。

 あとはデータを転送し、完了すれば――

「心が震えましたよ、僕の不注意で命を奪い、それが元でアンドロイドを造ろうとするあなたに出会えた。一瞬錯覚しましたね、自分の行動で、人を模した者を生み出す原因の中枢を担えたのだから」

 背後で聞き覚えのある金属音。

 振り返らなくても解る、リオンはこちらに銃を向け、そして自分を殺すつもりだ。

「それはよかったじゃないか、ならば僕は敬意を込めて一言……言わせてもらおう」

 転送を開始。

 AI内に書き込まれるプログラムの名称を決定し、リオンに視線を移し、吐き捨てる。

「お前は神じゃない、人間を滅ぼす悪魔だ」

 その言葉を最後に、家族を失い、家族を生み出した男の生涯は助手の放った弾丸によって幕を閉じた。

「悪魔、結構ですね。僕はあなたの研究データを手に入れ、アクトの製造権を主張し富を得る。あなたは本当によくやってくれましたよ」

 銃口をカプセル内のガンマに向け、ほくそ笑む。ひどく嫌らしい笑み。

「寂しくないように息子さんも、そしてご家族も後を追わせてさしあげますよ、紛い物ですがね」

 哄笑を上げ、撃鉄を引き弾丸が込められる。

 いくらアクトといえども至近距離から弾丸を頭部に食らえばAIが破損し、死ぬ。

 震える銃身、ぶれる照準。

 リオンは酔いしれていた。人を殺した愉悦と余韻、そして人ではない者に裁きの弾丸を食らわせることに。そして、その陶酔が手遅れの原因となった。

『AIガンマに新規プログラムの転送を完了しました。深層領域にプログラムを保管、作動確認のため、十分間プログラムを実行します、危険ですので研究員は至急避難を開始してください』

 研究室内のスピーカーから流れる音声と、視界を赤く染める警告灯、そして爛々と赤く輝くガンマの双眸に、リオンはパニックを起こした。

「な、なにが起こった? アクトリプス博士……貴様は一体なんのプログラムを……!」

 モニターの隅に表示されたプログラム名称にリオンの目が見開かれた。

『プログラム魔王を実行します』

「博士……貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 リオンの絶叫は、合成音声に掻き消され、誰の耳にも響くことなく、アンドロイド製作者、アクトリプスの研究所で博士と同じく、その生涯に幕を閉じた。



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