人と家族と二百年戦争
その日、彼は歓喜した。
五年前、家族を事故で失い、その寂しさから逃げるように長年研究し、開発を進めていた物がようやく完成したのだ。
いや、もう者と呼ぶべきだろう。
「博士、バイタル安定、脳波正常、五時間後には起動します」
五年間諦めず、世間と同じように、バカな研究を続けてきた自分を嘲笑うでもなく、真面目に、自分と同じように人生をかけて手伝ってくれた助手が、モニターに作品の状態を表示させた。
「おお……夢のようだ。これでまた、五年前と同じように家族みんなで……」
胸が締め付けられる感覚、だが痛くない。
五年前の事故でも同じような苦しみを味わったが、今回は違う。嬉しいのだ、これから先の未来に待つ、家族との幸せを想像するだけで視界が歪み、涙が溢れ出てくる。
「おめでとうございます博士。これでまた、ご家族との日々を取り戻せるはずです。形式番号XGR―5ではその感動も薄れてしまいます。彼らに名前をつけてあげてください」
助手の言葉に頷くことで答え、五つのカプセルに歩み寄り、それぞれを見つめた。
「名前ならば決まっているよ、妻のヤクモ、長女のシャイン、長男のガンマ、次女のケミネ、三女のレイ、みんな家族の名だ。そしてこれから先にも生まれるであろうアンドロイドたちも、みんなと同じ家族となれるよう、名称をアクトとする。目の前のプロトタイプ五体は運用試験という名目で、共に過ごさせてもらうよ」
「博士の望むままに、上層部には僕の方からそのように報告いたします」
五年前は、絶望のどん底に叩き落された心持だったが、やはり自分は幸せ物のようだ。
こうして甦った家族と優秀な助手、幸せに満ち溢れているように思えた。
その後、アンドロイド――全体呼称アクトはプロトタイプを除き、全世界にその存在を拡大し、ある者は身寄りのない老夫婦の家庭に、またある者は人手が足りない企業へと進出し、人々に喜びや幸せを運んだ。
アンドロイド作成計画、後のプロジェクトアクトは製作者が家族を失った悲しみを癒すために生み出されたはずが、今では世界中の人々を支える存在となった。
そして百年後――製作者も助手も事故でこの世を去り、プロジェクトアクトは一人歩きを始めた。
アクトの中から、暴走し、人間を襲うものが現われたのだ。
人間を超える身体能力のアクトが人間を襲う。それは人々にとって、大きな恐怖となり暴走を始めたアクトはギアと呼称され、処分されることとなったが、人間の手に負えないギアをどうやって処分したか――答えは簡単。壊れれば替わりのアクトを使ってギアを駆逐すればいい。
時の流れと共に忘れ去られた製作の根元を知らない人間はそう結論した。
それが悲しい家族同士の殺し合いだとも知らず、やがてアクトがギアを狩る図式は当たり前のものとなってしまった。