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完璧美少女の姫様は、俺の前だとすぐ赤くなる

作者: Romanoff726
掲載日:2026/04/26


ここは、男女逆転世界。


 社会的な立場は女性のほうが強く、恋愛でも女性から男性を選ぶのが当たり前。告白するのも、誘うのも、リードするのも基本的には女性側だ。


 そして、名家の子女たちが集う名門私立――白鳳院学園。


 全国トップクラスの偏差値を誇り、政財界の令嬢たちも数多く在籍する超エリート校である。


 そんな学園にも、誰もが認める頂点がいた。


 西園寺春菜。


 由緒正しき名門・西園寺家の末娘。容姿端麗、成績優秀、品行方正。淡い白金色の長い髪に、桜色の瞳。まるで絵画から抜け出してきたような美少女だ。


 生徒たちは畏敬を込めて、彼女をこう呼ぶ。


 ――姫様。


 その姫様が今、一年A組の教室で頬杖をつき、真剣な顔をしていた。


 五月の陽射しが白金の髪を照らし、窓際の席に座る彼女を幻想的に彩っている。


 誰もが見惚れる光景。


 だが、本人の頭の中はわりと残念だった。


(藤岡くん……さっきの体育、格好よかった……)


 西園寺春菜が想いを寄せる相手。


 同じクラスの男子、藤岡大輝。


 平凡な家庭の出身ながら、学力だけで白鳳院学園へ入学した特待生だ。


 真面目で努力家。しかも今日は体育の授業で、爽やかに活躍していた。


(勉強もできて、運動もできるなんて……ずるいわ)


 春菜の頬が、うっすら赤く染まる。


 だが彼女には、誰にも言えない秘密がもう一つあった。


(それに……あの腕……)


 視線が、大輝の腕へ吸い寄せられる。


(袖の上からでもわかる、あのたくましさ……)


(もし、あの腕に抱き寄せられて――)


「っ!? わ、私ったら何を……!」


 姫様、本日も平常運転である。


 誰も知らないが、西園寺春菜は恋をすると妄想が少し暴走するタイプだった。


 そして四時間目。


 数学の授業で、男女二人一組の発表課題が告げられる。


「それでは、こちらでペアを決めます」


 教室がざわつく。


 春菜は祈った。


(お願い……藤岡くんと同じ班に……!)


「西園寺と藤岡」


(勝ったわ)


 表情は無表情のまま、心の中ではガッツポーズだった。


 こうして二人は、一台のノートパソコンで資料作りをすることになった。


「西園寺さん、このグラフこっちに入れていい?」


「え、ええ。問題ないわ」


 距離が近い。


 近すぎる。


 肩が触れそうな距離で、大輝の低めの声が耳に届く。


(近い……無理……心臓がうるさい……)


 見た目は完璧美少女。


 中身は限界オタクだった。


 緊張で身じろぎした瞬間。


 ふにっ。


 春菜の胸が、大輝の腕に軽く触れた。


「……っ」


 大輝がわずかに姿勢をずらす。


(しまったあああああ!?)


 春菜の耳まで真っ赤になる。


 もちろん事故である。


 ……事故ということにしておきたい。


 気まずさに耐えられず、春菜は話題を振った。


「ふ、藤岡くんは……アニメとか、観るの?」


「観ますよ」


(声、好き……)


「西園寺さんも観るんだ?」


「私だって観るわよ」


「意外です。なんでも完璧な人って感じなので」


「……そう?」


「みんな姫様って呼んでますし」


(藤岡くんが私を姫様って呼んだ)


 ただ会話の流れである。


 しかし春菜の脳内では祝砲が鳴っていた。


「西園寺さん? 顔赤いですけど、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫よ」


「熱あります?」


「原因はあなたよ」


「え?」


「なんでもないわ」


 危なかった。


 口が滑るところだった。


 やがて作業が一段落し、春菜は最大級の勇気を振り絞る。


「その……課題の連絡もあるでしょうし……よければ、連絡先を交換しない?」


「あ、もちろん」


 即答だった。


 数秒後、春菜のスマホ画面には『藤岡大輝』の名前が表示される。


(連絡先……手に入れてしまった……)


(実質、婚約では?)


 違う。


 放課後。


 帰宅した大輝はベッドへ倒れ込み、天井を見上げた。


「……西園寺さん、今日なんか可愛かったな」


 学園中が憧れる完璧美少女。


 近寄りがたい高嶺の花。


 そう思っていたのに、今日は妙に慌てていて、顔を赤くして、年相応の普通の女の子みたいだった。


 思い出すと、少しだけ胸が落ち着かない。


 一方その頃、春菜は自室のベッドで枕を抱きしめながら転げ回っていた。


「連絡先……交換した……っ」


 白鳳院学園の姫様は、本日も恋に敗北していた。

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