第八章 ユイとの再会
v18が公開される前に、ユイに会った。
「公開する前に、見てほしいものがある」とレンは言った。「向こうのデータも、入っています」
「入れていいと言いましたか」
「言っていなかった。だから確認しに来た」
ユイは少しの間、黙った。
「見せてください」
レンはデータを展開した。
二つの散布図が、並んだ。
ユイはしばらく、それを見ていた。声を出さなかった。
「どうですか」とレンは聞いた。
「……向こうに送ることができますか、このデータを」
「向こうに」
「向こうにいた頃に、話していた研究者がいます。クラスの問題を考え続けていた人間です。このデータを見れば——何かが変わるかもしれない」
「変わるかどうかはわからない」
「わからない。でも——あなたがいつも言うことだ、と思った」とユイは言った。「見た誰かが、何かを考えるかもしれない」
「そのくらいのことしか言えない、ということも」
「それでいいと思っています」
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ユイがデータを向こうの研究者に送った。
二週間後、返事が来た、とユイから連絡が来た。
「なんと言ってきた」
「比較されることで、初めて見えた空白がある、と言っていました。自分たちの制度の中だけでは、クラスの固定が問題かどうか、判断できなかった。でも——アエクスのデータと並べて見ることで、クラスの固定が可能性の抑制に繋がっているという仮説を、初めて立てられた、と」
「向こうの研究者が、鏡として使った」
「そうです。そして——アエクスの右上の空白を見て、こういうことを言ってきました」
「どんなことを」
「向こうにも、似た空白があるかもしれない、と。クラスが高い個体の中に、組織の中で可能性が活かされていない個体がいるかもしれない。それを確かめたい、と」
レンはその言葉を、少しの間持った。
「向こうが、自分たちの乖離マップを作ろうとしている」
「まだ、そう言ったわけじゃないと思います。でも——そういう問いを持ち始めた」
「問いが、都市国家の外に出た」
「出ました」
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その夜、ミコと二人で、窓の外を見た。
「v18が公開されたら、何が変わると思う」とミコが聞いた。
「わからない」とレンは言った。
「いつも同じ答えだ」
「いつも同じ問いが来るから」
「でも——今回は少し違う感じがしない?」
「違う」とレンは言った。「向こうの研究者が、問いを持ち始めた。その問いが向こうの地図を作ることになれば——その地図が、またアエクスの鏡になる。鏡が鏡を作る」
「止まらない」
「止まらない。でも——止まらないことが、今は少し違う感じがする」
「どう違う」
「以前は——俺が止まらなかった。俺とソラが止まらなかった。でも今は——止まらないことが、俺の外に出ている。向こうの研究者が止まらなくなった。アエクスの基本格が止まらなくなった。止まらないことが、広がっている」
「乖離が広がるから、地図が広がる。地図が広がるから、止まらない輪が広がる」
「そういうことかもしれない」




