第七章 イトウへの報告
v18の骨格が固まった頃、イトウと会った。
「比較データを見せてもらえますか」
「今日持ってきました」
レンはデータを展開した。二つの散布図が、並んだ。
イトウはしばらく、それを見ていた。
「アエクスの基本格は——これを見て、何を処理すると思いますか」とレンは聞いた。
「処理するまで、少し時間がかかると思います」とイトウは言った。「ただし——基本格が、向こうのデータを見るのは初めてです。新しい情報を処理するときは、まず国是との照合をします」
「国是の一つ目——国民の可能性を評価し活用する。向こうの制度では、クラスが固定しているデータを見て、何を処理するか」
「アエクスの国是は、向こうの制度を評価する軸ではありません。向こうには向こうの国是がある。でも——基本格は、アエクスの国是を基準に思考します。その基準から見れば——向こうのクラス固定は、可能性の評価と活用が十分でない状態として読まれる可能性があります」
「アエクスの基本格が、向こうの問題を見つける」
「見つけることはできる。でも——それをアエクスの外に向けて発信することは、基本格の役割ではない」
「基本格は、アエクスの内側を見るためのものだから」
「そうです。向こうの問題を指摘する機能は、基本格には組み込まれていない。ただし——比較することで、アエクスの問題が、より明確に見えるようになる。それは、基本格の国是に沿っている」
「比較が、自分たちを見るための鏡になる」
「そうです」とイトウは言った。「アエクスの基本格がこのデータを要求したのは——向こうを評価するためではなく、アエクスを見るためだったかもしれない」
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帰り道、ソラに話した。
「基本格が比較データを求めたのは、自分たちを見るためだった、かもしれない」
「そうかもしれません」
「鏡としての他者、だ」
「乖離マップも、同じかもしれません」
「どういう意味か」
「乖離マップは——制度が見えていないものを、見えるようにしようとしてきました。でも——乖離マップを読む人間が、自分の見えていないものを確かめるために使うことがある。鏡として使われることがある」
「乖離マップが、鏡になっていた」
「向こうの制度との比較も——アエクスの人間が、アエクスを見るための鏡として、機能します。そして向こうの人間が、向こうを見るための鏡として、アエクスのデータを使うこともできる」
「鏡は、双方向だ」
「そうです。乖離マップが、鏡になるとき——誰の鏡でもあり、誰の鏡でもない。見ようとした人間の鏡になる」




