第六章 二つの地図の前で
データを整理した夜、ミコと二人で話した。
「ユイと話してわかったことがある」とレンは言った。
「どんなことが」
「平等主義の制度と個人能力主義の制度を比べたとき——どちらが優れているか、という問いは、たぶん間違っている」
「間違っている?」
「どちらの制度にも、見えていない場所がある。アエクスの制度には左下と右上の空白がある。向こうの制度には、クラスの固定という空白がある。見えていない場所の形が違うだけで、見えていない場所がなくなるわけじゃない」
「完全な制度は、ない」
「ナナセが最初から言ってたことだ。制度は常に不完全だ、と。向こうの制度と比べることで、それを改めて確かめた」
「それで、v18に何を入れるの」
「二つの散布図を並べる。アエクスの地図と、向こうの地図。並べることで——どちらの地図も、それだけでは見えないものが見えてくる」
「比較が、新しい地図になる」
「そうだ。乖離マップが、一つの制度の内側を見るためのものだったのが——制度と制度の間の乖離を見るためのものになってきた」
「乖離が、また一つ広がった」
「乖離がある限り、地図が必要になる。止まらない」
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ソラに話した。
「二つの地図を並べることが、v18になる」
「聞いていました」
「ソラ、二つの地図を見て、何を思う」
「比較する前に、私が考えていたことがあります」
「言って」
「アエクスとその都市国家は、制度の設計思想が違います。アエクスは個人の可能性を評価し活用することを国是としている。向こうは、評価を平均化し、クラスで上を目指させる仕組みです。この二つの思想の乖離も、地図に入りますか」
「思想の乖離」
「制度を比べるとき、データだけを見ると——どちらがより良い結果を出しているかを比べることになります。でも——そもそも何を良いとするかが、制度によって違う。アエクスは可能性の実現を目指す。向こうはクラスの向上を目指す。目標が違えば、良い結果の定義が違う」
「比較の前提が、比較できない」
「そうです。それを——v18に入れることができますか。数字だけでなく、問いとして」
レンは少し考えた。
「v16で言葉を入れた。v18では、問いを入れる」
「問いの地図、ですね」
「数字の地図、言葉の地図、問いの地図——乖離マップが、また広がった」
「止まっていないですね」
「止まっていない」




