第五章 散布図の比較
データが集まるのに、四ヶ月かかった。
公開データの範囲で作れる散布図は、アエクスのものとは形が違った。縦軸と横軸を変えなければ、比較できない。
カイとレンとツバサで、二つの都市国家の散布図を並べた。
「見えてきたことを整理します」とカイが言った。
「どうぞ」
「アエクスの散布図——横軸を買取価格、縦軸を実績スコアとした場合、左下と右上に空白がある。左下は、低投資層の可能性が実現していない問題。右上は、高投資層の中に組織によって可能性が抑制された個体がいる問題」
「向こうの散布図は」
「横軸を生まれたクラス、縦軸を成人後のクラスとした場合——対角線より上の個体(クラスが上がった個体)と、下の個体(クラスが下がった、または変わらない個体)に分かれます。問題は——対角線の下側に、下位クラス出身の個体が集中していることです」
「クラスが固定されている」
「傾向として、そう読めます。上位クラス出身の個体は、成人後も上位クラスにとどまりやすい。下位クラス出身の個体は、成人後も下位クラスにとどまりやすい」
「平等に始まっても、クラスで固定される」
「そうです。制度は平等に始まる。でも——クラスが固定する理由が、居住区域の分離にある可能性があります。上位クラスの居住区域で育った個体は、上位クラスの情報環境に育つ。下位クラスの居住区域で育った個体は、下位クラスの情報環境に育つ」
「アエクスと構造が同じだ」とレンは言った。「環境が、可能性を媒介している」
「アエクスでは——投資(買取価格)が環境を決めていた。向こうでは——クラスの居住区域が環境を決めている。媒介が変わっても、構造は同じです」
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ツバサが言った。
「一つ気になることがあります」
「どうぞ」
「向こうの制度では、障害を持つ人間は、どのクラスに分布していますか」
「データが限られていますが」とカイは言った。「公開データの範囲で見ると——下位クラスに、やや多い傾向があります」
「アエクスと同じですか」
「アエクスでは——障害を持つ人間が、低持ち点層に集中する傾向があります。制度が障害を保証していても、評価の積み上げで差が生まれる。向こうでは——全員同じ持ち点のはずなのに、クラスの差が生まれている」
「制度が異なっても、結果が似ている」
「似ている傾向があります。確定ではないですが」
ツバサは少し黙った。
「制度が変わっても、同じ場所に集まる人間がいる、ということか」
「そうかもしれません」とレンは言った。「制度は乖離の形を変えるが、乖離の存在を消すことはできない。それが、比較で見えてきたことかもしれない」




