表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

第四章 ミコの視点

 その夜、ミコに話した。


「平等主義の都市国家との比較データを集めている」


「どんな比較をしようとしてる」とミコは聞いた。


「アエクスの乖離が、アエクス固有のものか、それとも制度に関係なく起きるものかを確かめたい。クラス制の都市国家と比べることで、格差の形が見えるかもしれない」


「クラス制か」ミコは少し考えた。「研究機関の同僚に、向こうの出身者がいる。聞いてみようか」


「出身者がいるのか」


「都市国家間の人の移動は少ないけど、ゼロじゃない。ユイという人間が、研究機関に来ている。私の研究グループの外側にいるから、あまり話したことがなかった。でも——クラス制の話をすると、何か持ってるかもしれない」


「紹介してもらえるか」


「聞いてみる」


---


 一週間後、ミコからメッセージが来た。


「ユイが、会ってもいいと言ってます」


「どんな人か」


「三十代の前半。研究者。向こうを出てきたのは二十代のときらしい。なぜ出てきたかは、まだ聞いていない」


---


 会ったのは、外縁区画の静かな店だった。


 ユイは、落ち着いた顔をしていた。何かを計算する目ではなく、観察する目だった。


「乖離マップを作っている人ですね」とユイは言った。


「そうです」


「向こうでも、知っている人間がいます。アエクスのデータだから、直接は関係ないけれど——制度の違いを考える材料として、読んでいる研究者がいた」


「向こうを出てきた理由を、聞いていいですか」


 ユイは少し間を置いた。


「クラスが、上がらなかったから、というのが一つです」


「クラスが固定していた」


「固定していたわけじゃない。上がる仕組みはある。上がるための方法も、制度として示されている。でも——上がっても、その先が見えなかった」


「その先が見えない、というのは」


「クラスが上がると、住む場所が変わります。接触する人間が変わる。情報が変わる。でも——その変化が、自分がやりたいことに、繋がっていなかった」


「やりたいことと、クラスが別の方向を向いていた」


「そうです。向こうでは——クラスを上げることが、目的になりやすい。手段が目的になる」


「アエクスの得点制度も、似たことが起きる可能性がある」とレンは言った。「持ち点を上げることが目的になって、持ち点で何をしたいかが消える」


「似ているんですね」とユイは言った。少し驚いた顔をした。


「制度が変わっても、人間の動き方には似たパターンが出る」


「向こうにいるときは、向こうの問題だと思っていた。アエクスに来て——同じ問題が、形を変えてここにもある、と気づいた」


---


「クラス制の中で、見えていないものは何だと思いますか」とレンは聞いた。


 ユイはしばらく考えた。


「クラスが下の人間の、可能性です」


「どういう意味か」


「制度は——クラスを上げることを促します。でも、クラスを上げようとしない人間がいる。上げようとしないのではなく——上げる方法が見えない人間、上げることに意味を感じない人間、上げようとして上がれなかった人間。その人間たちが、クラスの下に集まっていく」


「クラスの下に集まった人間が、見えていない」


「クラスで住む場所が分かれているから——上のクラスの人間には、下のクラスの人間が見えにくい。物理的に、見えない」


「居住区域の分離が、見えなくする」


「そうです。分離することで、摩擦が減る。上位クラスとのトラブルを少なくするため、という制度設計の意図があると聞いています。でも——摩擦が減るということは、接触が減るということでもある。接触が減れば、理解が減る」


「理解が減れば、想像が減る」


「想像が減れば——下のクラスにいる人間の可能性が、上のクラスの人間には見えなくなる。見えないものは、評価されない」


 レンはその言葉を、少しの間持った。


「アエクスの右上の空白と、似た構造がある」


「どういうことですか」とユイが聞いた。


「組織の中で、上の立場の人間には、下の立場の個体の可能性が見えにくい。だから評価されない。クラスの話も、同じ構造だ。上から、下が見えない」


「見えないことが、乖離を作る」


「アエクスの制度でも、向こうの制度でも——見えないことが、問題の根にある」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ