第三章 データを集める
比較のためのデータ収集は、アエクスの時より難しかった。
他の都市国家のデータは、公開されている部分が限られる。都市国家間の情報共有には制限がある。レンとカイは、公開データの範囲で何ができるかを、まず整理した。
「公開データで見えることと、見えないことを分けましょう」とカイは言った。
「見えることは」
「標準認定試験の結果の分布。クラスの分布。成人後の就業状況の大まかな傾向。これは向こうが公開しています」
「見えないことは」
「個人の素体スコアと実績スコアの相関。成人査定の個人データ。組織別の評価パターン。これは非公開か、そもそもそういう形でデータが存在しない可能性がある」
「買取価格の個人差がないから、素体スコアと買取価格の相関という軸が使えない」
「そうです。アエクスの乖離マップの縦軸と横軸が、向こうには適用できない」
「新しい軸が必要だ」
「それを、今日考えたかった」
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ソラに問いを立てた。
「平等主義の都市国家の乖離を見るために、どんな軸が使えるか」
「考えてみます」とソラが言った。少しの間があった。
「アエクスの乖離マップは、素体スコアと実績スコアの間に買取価格が介在することを示しました。その構造を言い換えれば——生まれた可能性と、実現した結果の間にある、環境の差です」
「平等主義の都市国家では、環境の差が制度上は小さい」
「はい。買取価格が全員同じなら、七歳までの投資の差は、親の持ち点による部分だけになります。ただし——親の持ち点は、アエクスと違って全員同じです。つまり理論上、七歳時点での環境格差は、カリキュラムの選択の差だけになる」
「カリキュラムは自由に選べる。でも有料のものと無料のものがある」
「そうです。有料カリキュラムを選べるかどうかが、七歳時点での差の一つになる可能性があります。ただし、借り入れで補える仕組みもある」
「軸の候補は」
「一つ目——クラスの推移です。子供の頃のクラスと、成人後のクラスが、どのくらい変化しているか。上に上がった個体と、下に落ちた個体の分布」
「平等に始まって、クラスで分かれる。そのクラスが固定しているかどうかを見る」
「はい。二つ目——クラスの居住区域と、就業状況の相関です。上位クラスの居住区域に生まれた個体と、下位クラスの居住区域に生まれた個体で、成人後のクラスに差があるか」
「居住区域の分離が、新しい環境格差になっていないかを見る」
「そうです。クラスで住む場所が分かれれば——そこで接触する情報、人間、教育の機会が変わります。それが、次の世代の格差を作る可能性がある」
レンは少し黙った。
「アエクスの左下と、形が違うかもしれないが——同じ構造かもしれない」
「そうかもしれません。制度が変わっても、格差の種が変わるだけで、格差が消えない可能性がある」
「それを、データで確かめる」




