第二章 平等主義の都市国家
「比較対象の都市国家は、アエクスとは制度の根本が違います」とイトウは言った。
「どう違いますか」
「アエクスは——個人の能力を個別に評価します。持ち点は個人の試験結果。買取価格は個人の査定で決まる。格差が生まれることを前提に、最低保証で下を支える仕組みです」
「左下の問題が生まれる構造だ」
「そうです。では——持ち点の差をなくした制度はどうなるか。その都市国家では、標準認定試験を全員が受けますが、個人の持ち点は全員の試験結果の平均値です。全員が同じ持ち点を持つ」
レンは少し止まった。
「全員が同じ持ち点」
「他者への評価も、一回あたりの点数が固定されている。持ち点の多寡で評価の重みが変わらない。買取価格も、その年の全七歳の平均値で固定です。個人差がない」
「個人間の評価の差が、制度上は存在しない」
「そうです。ただし——クラス制があります。個人の実評価に基づいてクラス分けが行われ、上位クラスを目指すよう設計されている。上位クラスとなれば、同一選択の場面で優先される。居住区域も、クラスごとに分かれている」
「平等に始まって、クラスで分かれる」
「そうです。表向きは平等。でも——クラスという形で、別の差が生まれている」
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帰り道、ソラに話した。
「平等主義の都市国家の話を聞いた」
「聞いていました」
「全員同じ持ち点で始まる制度だ」
「アエクスとは、乖離の形が違いそうですね」
「そう思った。アエクスの左下は——生まれた可能性が、投資の差によって実現できない問題だ。でも全員が同じ査定金額で始まる制度では、左下の問題が別の形で現れるか、あるいは現れないかもしれない」
「現れないとすれば」
「代わりに、何か別の問題が現れるはずだ。制度が変われば、乖離の場所が変わる。でも乖離がなくなるわけじゃない」
「乖離は、制度の形に沿って生まれる」
「そう。どんな制度でも、見えていないものがある。その形が違う」
「比較することで、どちらの見えていないものも、見えるようになるかもしれない」
「それが、次の地図だ」




