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「今更対策しても、もう遅い♡」と毎月ざまぁをしてくる花粉ちゃん  作者: 田中田田中


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9/12

9月 小悪魔後輩ブタクサの夜の河川敷誘惑♡

 九月。


 夏を乗り切った僕は、もう今年の勝負は終わった気になっていた。

 八月のヒノキさんのチェックも受けて、アラームもセットしてもらって、もう大丈夫だと。


 その甘さを笑うように、校門の前で小さな後輩が僕を待っていた。



 ◆◆◆◆◆



 今日は花火を見に河川敷に来ていた。


「先・輩♡」


 その相手は、ブタクサ。

 一学年下で、小柄で、ぱっと見は清楚なのに、目だけがやけに意地悪に光る子だ。


 今日の花火を楽しみにしていたらしく、可愛らしい黄色のキクの着物を着ていた。

 いつもの学園で見る彼女と違う姿に、僕は隣に立っているだけでドキドキとしてくる。


「な、何……?」


「今年はもう安・心♡ な・ん・て、思ってませんか?」


「そんなこと……」


「ありますよぉ♡」


 ブタクサは僕のネクタイを指先でつまみ、ぐいっと引き寄せた。

 距離が一気に縮む。


「だ・っ・て♡ 先輩は甘いんだもん♪」


 グイグイと来る後輩に、僕は抵抗の言葉が出ない。


「カモガヤちゃんの次は、ワタシの番なんだから! 先・輩♡ 知らなかったなんて、言わせませんよ?」


 いちいち語尾が、僕を刺激してくるのは何故なのだろうか。


「し、知らないっていうか……」


「ふふっ♡ じゃ~あ~っ♪ ワタシが手取り、足取り♡ 教えてあげますね♪」


 さらっと怖いことを言って、ブタクサは僕の腕に絡み、そのまま河川敷へ連れていく。


 草むらが近い。

 危険地帯だ。


 でもブタクサの指が僕の腕に食い込むと、危険よりも別の意味で心臓がうるさくなる。


「人がいないところに連れ込んで、何を……」


「そんなコト、決まってるじゃないですか♡」


 風が吹く前に、ブタクサが立ち止まった。


 フェンス際、周りには誰もいなかった。

 逃げ道がない。


「先・輩、マスクしてないですよね」


「今は……大丈夫だって……」


 囁きが甘い。

 ブタクサは僕の顎を指で持ち上げ、視線を固定する。


「くすくすくすっ♡ 先・輩♡ こういうの、弱いですよね♪」


「……っ」


 相変わらず、近すぎる。

 唇が触れる距離で、ブタクサはわざと止まった。


「ほ~らっ♪ つ・け・て♡」


「え……」


「つけないと、デキないでしょ?」


 ナニを付けないと、ナニがデキないのか。


 それはわざとなのか、それとも天然なのか。

 とにもかくにも、存在しない主語と、一向に脳内変換ができない漢字のせいで、あらぬ脳内補間が働き、僕の思考が止まってしまった。


「な、なにを……」


「くすくすくすっ♡ ナニをって……そ・りゃ・あ……」


 彼女はポケットから新品のマスクを取り出し、僕の手に押し当てる。


「マ・ス・クにぃ、決まってるじゃないですかぁ♪」


「えっ……」


 そのまま僕の耳にマスクのゴムの部分を、僕の肌を伝うようにかけていく。

 ゾクゾクと僕の鳥肌が立っていくと、こしょこしょ話で僕の耳に答え合わせをしてきた。


「マスクをしないと、予・防(ヨ・ボ・ウ)、できないでしょ?」


「あ……」


 僕がイケナイことを考えてしまっただけなのか。


 でも、さっきの言い回しは、多分狙って言っているような気がする。

 くすくす♡と笑う彼女のその笑みに、信用がならないからだ。


「今更『聞こえなかった』って言っても、もう遅い♡」


 ブタクサは笑って、僕の耳元に息を落とした。

 そして、僕の手元を見て目を細める。


 そのままこの日のために塗ったと思われるマスカラが近づいてくると、僕は目を瞑った。


「くすくすっ♡ いただきまぁ~っす♡」


 マスク越しに手をかけ、ブタクサに顔を覆いつくされたとき、異音が鳴った。


『点鼻くん、時間よ♡――ほら、早く……お・ク・ス・リ、飲みなさい♡』


「……あ」


 午後八時。

 ヒノキさんの設定した「お薬を飲む時間」に、僕は助けられた。


 こんな時に助けられるとは思っていなかったけれど。

 あの時消そうなんて、思ってごめんなさいと謝った。


 いや、邪魔されたといっても、差し支えないかもしれない。

 それくらい少し残念に思っている僕もいた。


「へぇ~っ♪ ヒノキ先輩と、そういうコト、してるんだ♡」


 僕のスマホから鳴る、トクベツなアラーム音声。


「じゃあ私も、しちゃおっかな♡」


「えっ」


 ブタクサはそのスマホを僕から奪うと、手慣れた操作で録音を開始した。


「せん、ぱい♡」


「……っ!」


「す――」


 その時、「バァーーン」と大きな音を立て、開幕一番の花火が真っ赤に光りだした。

 僕はブタクサが何を言っていたか、聞き取れなかった。


「はい、先輩♡」


 やっと返ってきたスマホには、録音完了のログだけが表示されていた。


「続きは~、あとで一人で、聞いてくださいね♡」


 その日、僕はドキドキしていて、見た花火の光景や河川敷の綺麗な景色を、ほとんど覚えていなかった。


 後日、録音を聞くも、肝心なメッセージのところは結局花火で聞こえず、僕はいっそう悶々とさせられるのだった――

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