表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「今更対策しても、もう遅い♡」と毎月ざまぁをしてくる花粉ちゃん  作者: 田中田田中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/12

4月 保健委員ヒノキの密室看病♡

 四月。

 スギの波が少し引いた頃、ヒノキの番が来る。



 ◆◆◆◆◆



 僕は保健室のベッドに横になっていた。

 点鼻薬を焦って使いすぎて、喉に落ちて、むせて、咳が止まらなくなったのだ。


「点鼻くん。 起きなさい」


「……うぅ……」


「起きなくていい。 顔だけこっち向けて」


 その冷たい声で命令されると、逆らえない。


 僕はのろのろ顔を向ける。

 ヒノキさんがベッドの脇に座っていた。


 距離が近い。

 逃げ場がない。


「今更点鼻薬をドバドバ使っても、もう遅い」


 ヒノキさんは僕の足から撫で回すように手を這わせてきた。


「回数を守らないからこうなるの」


「症状がひどくて……多めにしたら、効くかなって……ごほっ、ごほごほっ!」


「用法と容量を守るのは、当たり前」


「すみません……そんなこともわからなくて。 馬鹿……ですよね」


「知ってる」


「うぅ……」


 そう言いながら、ヒノキさんは這わせていた指をやがて背中に置いた。

 そのまま、僕の背中をさすった。


「あ……」


 一定のリズム。


 落ち着く。

 情けないくらい落ち着く。


「呼吸、整えて」


「すー、はー」


「そうよ。 吸って、吐いて」


 まるでナニかイケナイことをしているかのよう。

 いや、イケナイことを教え込まされているかのようだった。


 僕はただ、ヒノキさんに看病されているだけのはずなのに。


「……はぁ……」


 少し咳が落ち着いた。


 そのタイミングで、ヒノキさんの手が喉元に触れた。

 まるで熱を確かめるみたいに、そっと。


「まだ熱い」


「ひゃ……」


「なに」


「ち、近くて……」


「看病される距離なのだから、これくらい近くて当たり前でしょう」


 そう言われると、何も言い返せない。

 ヒノキさんはただ、僕のことを思って看病してくれただけなんだ。


 ヒノキさんはじっと僕を見て、それから少しだけ表情を緩めた。


「……本当に、情けない顔をしてる」


 そんなことを言われたら、僕の方が困る。


 もしここで手でも握られたら、たぶん花粉じゃない理由で息が止まる。

 でも現実はそう甘くない。


 喉の奥に点鼻薬の苦みが残っていて、僕はそこでまた盛大にむせた。


「ごほっ! ごほっ!」


「ほら、台無し」


「すみません……」


 そこで僕はふと疑問に思った。


「でも、ヒノキさんはどうして僕にこんなに優しくしてくれるんですか?」


 情けなくて見ていられないのなら、放っておけばいいのに。


「今更そんなことを聞くの?」


「す、すみません……」


 僕、謝ってばかりだ。


「貴方が……放っておけないからよ」


「えっ……」


 情けないけど、放っておけない。

 その感覚が、僕にはわからなかった。


 いや、単に鼻水で息苦しくなって、頭がぼーっとして何も考えられなくなっているだけかもしれない。


「私、あなたとなら受粉(・・)してもいいと思っているんだけど」


「えっ」


 ヒノキさんにぼそりとそう言われて、僕はその澄んだ声に自然と耳が真っ赤になった。

 けれどそれがどういう意味を持つのか、僕にはまだ分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ