3月 スギ先輩のお花見大作戦♡
三月。
春本番。
敗北の季節がやってきた。
◆◆◆◆◆
スギ先輩に「桜、見に行こっか」と呼ばれた時点で、僕は既に半分負けていた。
花見なんて、花粉症持ちが行く場所じゃない。
でも断れない。
あのスギ先輩が笑うと、僕は弱い。
桜並木の下で、先輩はいつもより上機嫌だった。
「ねえ、症太郎くん♪ 今日さ、ちょっとデートっぽくない?」
「で、デート……」
「そう思ってくれても、いいんだよ?」
だめだ。
心臓が持たない。
このドキドキはきっと、花粉で鼻がつまって、上手に呼吸ができないせいだ。
そう思うことで、この胸の高鳴りをどうにか抑えようとしていた。
先輩は僕の腕に自然に触れ、そのまま指を絡める寸前まで距離を詰めてきた。
「その、僕……」
「さっきおクスリ、飲んだばかりなんでしょ?」
「は、はい……」
図星だった。
「今更『おクスリをごっくんした』って言っても、もう遅い♡」
「えっ」
「飲み薬は、『効き始め』に飲んでから一時間はかかるんだよ?」
「そ、そんな……」
「くすくすくすっ」
言い返せない僕に、スギ先輩は耳元で囁く。
右耳に。
「――私の季節に、後出しは効かないんだから♪――」
「ふわぁっ……!?」
そして今度は回り込んで、左耳に。
「――じゃあ今日は、私にたくさん振り回されて?――」
「あ、あふっ……!」
その囁きが甘すぎて、足が止まりそうになる。
もしこのまま先輩が手を握ってきたら、たぶん僕はもう何も言えない。
そして、先輩は両耳を責めたあと、僕の正面に立った。
ああ、僕、今度は前から責められちゃうんだ。
「え……?」
前から責めるって、何されるんだろう?
時間が止まったようにそこで思考の停止した僕は、前から来る脅威に抗えない無防備の状態だった。
そうそれは、まるでマスクもしないで薬も飲まないで、スギの木に直接ダイブするような感覚。
そして、花粉まみれになっているそのスギのお花と、僕の鼻がマスク越しに、重なろうとしていた。
「ふふっ、私が、受粉させてあげる――」
その瞬間、風が吹いた。
舞い上がる花粉。
僕の鼻は一秒で終わった。
「……っ、へっくちょむん! へっぶしゅぃん!!」
「うわ、すご」
返事の代わりにくしゃみが連発する。
目も潤んで、鼻水まで出てきて、さっきまでの甘い空気が全部どこかへ飛んだ。
「ご、ごめんなさい……!」
「くすくすくすっ、よわ~い♡ よわよわだね♪」
スギ先輩は呆れたように笑いながらも、ティッシュを何枚も渡してくれた。
その手つきがやたらと手慣れていて、僕はそれが少し悔しい。
「……ほんとはさ、もう少し近くで見たかったのにな」
「え……」
「症太郎くんの顔。 泣きそうでかわいいから」
そんなことを言われた直後に、僕はまたくしゃみをしてしまった。
恋愛どころじゃない。
ほんとうに。




