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「今更対策しても、もう遅い♡」と毎月ざまぁをしてくる花粉ちゃん  作者: 田中田田中


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3/12

3月 スギ先輩のお花見大作戦♡

 三月。

 春本番。


 敗北の季節がやってきた。



 ◆◆◆◆◆



 スギ先輩に「桜、見に行こっか」と呼ばれた時点で、僕は既に半分負けていた。


 花見なんて、花粉症持ちが行く場所じゃない。


 でも断れない。

 あのスギ先輩が笑うと、僕は弱い。


 桜並木の下で、先輩はいつもより上機嫌だった。


「ねえ、症太郎くん♪ 今日さ、ちょっとデートっぽくない?」


「で、デート……」


「そう思ってくれても、いいんだよ?」


 だめだ。

 心臓が持たない。


 このドキドキはきっと、花粉で鼻がつまって、上手に呼吸ができないせいだ。

 そう思うことで、この胸の高鳴りをどうにか抑えようとしていた。


 先輩は僕の腕に自然に触れ、そのまま指を絡める寸前まで距離を詰めてきた。


「その、僕……」


「さっきおクスリ、飲んだばかりなんでしょ?」


「は、はい……」


 図星だった。


「今更『おクスリをごっくんした』って言っても、もう遅い♡」


「えっ」


「飲み薬は、『効き始め』に飲んでから一時間はかかるんだよ?」


「そ、そんな……」


「くすくすくすっ」


 言い返せない僕に、スギ先輩は耳元で囁く。

 右耳に。


「――私の季節に、後出しは効かないんだから♪――」


「ふわぁっ……!?」


 そして今度は回り込んで、左耳に。


「――じゃあ今日は、私にたくさん振り回されて?――」


「あ、あふっ……!」


 その囁きが甘すぎて、足が止まりそうになる。

 もしこのまま先輩が手を握ってきたら、たぶん僕はもう何も言えない。


 そして、先輩は両耳を責めたあと、僕の正面に立った。


 ああ、僕、今度は前から責められちゃうんだ。


「え……?」


 前から責めるって、何されるんだろう?


 時間が止まったようにそこで思考の停止した僕は、前から来る脅威に抗えない無防備の状態だった。

 そうそれは、まるでマスクもしないで薬も飲まないで、スギの木に直接ダイブするような感覚。


 そして、花粉まみれになっているそのスギのお()と、僕の()がマスク越しに、重なろうとしていた。


「ふふっ、私が、受粉(・・)させてあげる――」


 その瞬間、風が吹いた。


 舞い上がる花粉。

 僕の鼻は一秒で終わった。


「……っ、へっくちょむん! へっぶしゅぃん!!」


「うわ、すご」


 返事の代わりにくしゃみが連発する。

 目も潤んで、鼻水まで出てきて、さっきまでの甘い空気が全部どこかへ飛んだ。


「ご、ごめんなさい……!」


「くすくすくすっ、よわ~い♡ よわよわだね♪」


 スギ先輩は呆れたように笑いながらも、ティッシュを何枚も渡してくれた。

 その手つきがやたらと手慣れていて、僕はそれが少し悔しい。


「……ほんとはさ、もう少し近くで見たかったのにな」


「え……」


「症太郎くんの顔。 泣きそうでかわいいから」


 そんなことを言われた直後に、僕はまたくしゃみをしてしまった。


 恋愛どころじゃない。

 ほんとうに。

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