2月 保健委員ヒノキの先回り予防指導♡
二月。
僕はドラッグストアで薬を買った。
買っただけで、安心してしまった。
◆◆◆◆◆
そして翌日、保健室に呼び出された。
「点鼻くん。 座りなさい」
保健委員のヒノキさんは、白衣の袖をきっちり整えたまま、僕を見下ろしていた。
僕はその目に弱い。
怒られているのに、ちゃんと見てもらえている感じがしてしまうから。
「薬、買ったんでしょう?」
「は、はい……買いましたよ、きちんと!」
「飲んだ?」
「ま……まだです」
「遅い!」
即答だった。
ヒノキさんは机の上に、僕が昨日買ったのと同じ薬箱を置く。
「薬を買うだけじゃ、ダメ。 飲むなら『今』、でしょう?」
ヒノキさんはただ淡々と僕に怒っているだけのはずなのに。
僕はそのあまり動かない、みずみずしい唇がかえって魅力的で、思わず目を奪われてしまっていた。
「す……すみません」
話半分になってしまい、咄嗟にいつもの癖のように謝る僕。
「謝る前に、水」
差し出されたコップを受け取る。
言われるがまま薬を飲む僕を、ヒノキさんはじっと見ていた。
視線が近い。
「んくっ、んくっ……ぷはぁ」
飲み込むだけで緊張する。
「目、赤いわね」
「その、少しかゆくて……」
「目薬、使う?」
「だ、大丈夫です!」
別に他人の使った目薬を借りるなんて、変なことじゃないはずなのに。
でもなぜかこの時の僕は、イケナイことのように感じてしまっていた。
そう、まるでヒノキさんが口をつけたペットボトルに口をつけるような――
「大丈夫じゃない顔してる」
ヒノキさんは僕の顎を軽く持ち上げた。
距離が一気に縮む。
鼻先が触れそうなくらい近い。
「まばたき、しない」
「えっ、あ、はい……」
まるで淡々とキスを迫るかのように近づいてくる顔は、僕の瞳をまっすぐと覗いていた。
そしてやがて、目薬の先が見える。
冷たい一滴が落ちてくる直前。
「……ひ、ひゃぁっ!」
目薬のあの染みる感覚がやってくることが耐えられず、反射的にびくっと身体が跳ねてしまったのだ。
そのせいで目薬は僕の目ではなく、額に落ちた。
「…………」
「ご、ごめんなさい……!」
僕たちしかいない保健室に、静寂が訪れる。
でもヒノキさんは怒鳴らなかった。
ため息をついて、ティッシュで僕の額を拭いた。
「本当に、どんくさい」
「うぅっ……はい……」
「でも、放っておくともっと悪くなるから、面倒は見る」
その言い方はずるい。
僕みたいな弱い人間は、それだけで救われてしまう。
「今更『自分でなんとかする』って言っても、もう遅い。 今日は私の指示に従いなさい」
僕は小さく「はい」と返した。
正直、少しだけうれしかったのは、薬が効いたせいじゃなかったと思う。




