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「今更対策しても、もう遅い♡」と毎月ざまぁをしてくる花粉ちゃん  作者: 田中田田中


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1/12

1月 スギ先輩の手取り足取りマスク予防♡

 僕は毎年、花粉症に負ける。

 そして毎年、「今年こそは早めに対策しよう」と思う。


 そう思うだけだった。



 ◆◆◆◆◆



 一月の朝はまだ寒くて、花粉の本番には遠いはずなのに、乾いた空気が鼻の奥をくすぐった。

 僕はそれだけで不安になって、マフラーに顔をうずめる。


「もう春のこと考えてるの? 気が早いねえ、症太郎(しょうたろう)くん」


 振り向くと、街路樹の陰にスギ先輩がいた。

 淡い緑の髪を揺らして、いかにも面白そうに僕を見ている。


「べ、別に……考えてないです」


「うそ。 鼻、気にしてた」


 スギ先輩はずいっと顔を寄せてきた。


 近い。

 ものすごく近い。


 僕は後ずさろうとして、電柱にぶつかった。


「うぐっ……」


 逃げ場がない。


 先輩はふふっと笑って、僕のマフラーを指先で整える。


「今更『今年こそ対策する』って思っていても、もう遅い♡」


 喉に触れるか触れないかの距離で、わざと、ゆっくり。


「そういうの、一月のうちに終わらせるものだよ?」


 先輩の声は、まるで姉のようないたずら心と優しさを、僕に染み渡らせてくるかのようだった。

 そう、それはまるで「ハジメテを終わらせていないなんて、キミは遅いんだから」と思わずドキリとする言葉をかけられているかのよう。


「お、思ってはいたんです……!」


「思ってただけなんて。 かわいいねぇ~、症太郎くんって」


 かわいいと言われると、僕は何も言えなくなる。

 反論したいのに、言葉が出ない。代わりに鼻がむずっとした。


「……へっ?」


「ほら。 もう来てる」


「ま、まだ一月ですよ……!」


「花粉じゃなくても、怯えで負けてるじゃん」


 スギ先輩は楽しそうに言いながら、ポケットから新品のマスクを取り出した。


「つけて、あげよっか?」


「え、い、いいです! 自分で……」


「遠慮しないの。 そういう弱いとこ、好きだよ?」


「へぇっ!?」


 『好き』の一言で、僕の思考が止まった。


 先輩の指が僕の耳にかかり、マスクの紐をそっとかける。


 こんなの、ほとんど恋人みたいじゃないか。

 僕の心臓が、徐々にうるさくなっていく。


 でも、スギ先輩の手はまだ近づいてきて、僕の頭を抱きかかえようとする。

 そしてそのまま、僕のマスク越しに、スギ先輩の唇が――


 唇が――


 ――その瞬間、冷たい風が通り抜けた。

 乾いた空気が鼻を刺す。


「はっ……は……はっ――っっっっくしゅん!」


 盛大なくしゃみが出た。

 せっかくつけてもらったマスクがずれて、僕は情けなく鼻を押さえる。


 スギ先輩は一瞬きょとんとして、それから吹き出した。


「ぷっ、ふふっ、なにそれ!」


「す、すみません……」


「もう、仕方ないなぁ……」


 先輩は笑いながら僕のマスクを直してくれた。


 まだ1月で肌寒いはずなのに。

 なぜか僕は、既に春の始まりを感じていたのだった。

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