表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルクラートさんちの夢喰日記  作者: Akira Clementi
第十三章 子供城

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/122

第九十五話

 翌朝、目覚めの気分はいまいちだった。体の疲れが抜けきらず、重く感じる。分厚いカーテンをめくって外を見れば、まだ太陽が少しばかり顔を覗かせたかのように、うっすらと明るい。


 普段より早く目覚めてしまった。


 いつもならば完全に明るくなる頃まで眠っているので正直物足りないが、この環境では寝直す気にもなれない。


 部屋の中に、魔力が流れ込んでいる。


 もちろん私のものではない。自分の魔力が邪魔で目覚めるのだとしたら、今頃私は重度の不眠症だ。


 何者かが使う魔法が執拗に私に向けられているせいで、魔力抵抗が反応してしまい、体の奥がむずむずして仕方ない。骨がとても痒いのに掻けない。そんな感じだ。


 なんという安眠妨害。この魔法を使っている術者は良心が咎めないのか。


 いや、そうならないからこうして眠っている私に魔法をかけようとしたんだな。睡眠中は失神ほどではないものの魔力抵抗が弱くなるから、魔法をかけるにはちょうどいい。


 だからといっておとなしく魔法にかかる気もないので、私はしっかり抵抗させてもらうことにした。


 両手で水をすくうようにして、周囲に漂っている魔力を集める。掌に意識を集中すれば、私に向けられている魔法の正体が脳内に浮かび上がってきた。


 記憶の遺産に、合致する魔法がある。とても古い魔法だ。非人道的だとして禁止された魔法である。どんなに禁止され廃れても、一度作り出された魔法が無に帰すわけではない。こうして使う輩は必ずいる。


 そんな魔法の内容は、対象の体を子供にするというもの。


 なるほど。こうして対象が眠っている間に魔法をかけて、子供の姿を保っていたのか。肉体の時間を巻き戻し封じるこの魔法は、毎日かけられていたら脳が混乱して記憶があいまいになる。昨晩はっきりしたクーアの記憶も、またこうして魔法をかけられ続けたらどんどん薄れてしまうだろう。


 意識を失った状態では私もあっさり魔法にかけられてしまったが、ただの睡眠だったので魔法抵抗力が働いて目が覚めたというわけか。キールについて思い悩んだおかげで眠りが浅かったのも幸いした。


 けれども、魔物全員が私のように体が反応して目覚めるわけでもない。クーアやギヴンは、見事に魔法にかかっている。


 それにしても、魔法に抵抗し続けているこのむずむずとした感覚が、とても煩わしい。

 私に向けられている魔法はさほど強い魔力が込められているわけでもなかったので、さっさと防御魔術を自分にかけた。むずむずとした感覚がすっと消え去って、とてもいい。


 誰かが私にかけようとしたこの魔法を解くのは、脈々と受け継がれてきた記憶の遺産を持つ私なら難しいことではない。体を元に戻せるのかという疑問は解決した。


 寝直す気にはなれなかったので、そのまま着替えた私はベッドに腰かけてぼんやり窓の外を眺めていた。すっかり夜が明けた頃、部屋のドアがノックされる。返事をすると、ノックの主はラッテだった。


 ベッドサイドの置時計で、時刻を確認する。

 昨晩クーアに教えられた時間からして、ラッテはキールに食事を届けた後私のところに来たようだ。


「おはようございます、エルクラート。よく眠れましたか?」

「まあまあだな。もしかして毎朝様子を見に来てくれる気か?」

「いいえ。ですがあなたは城に来たばかりですので、体調を崩していないか念の為に」

「そうか」


 私が防御魔術を使っていることに、ラッテは気づいていないようだ。あとでクーアにも同じ魔法をかけよう。

 ラッテに連れられて、食堂へ行く。料理番のギヴンとクーアは私よりもかなり早起きで、食堂には人数分の朝食がすっかり用意されていた。


 つやつやぷるんとした半熟の目玉焼きに、黄緑も鮮やかなレタスのサラダ。それから、こんがり焼けたウィンナー。焼き色がついたロールパンからは、食欲をそそるバターの香りが漂っている。瑞々しいオレンジの元気な色を目にしたら、少しばかり気分が晴れた。


 全員が食堂に集まり、朝食を食べ始める。


 私のすぐ隣に座るラッテは、今日も山盛りの食事をぺろりと平らげてみせた。しっかり朝食を食べる派だとしても、食べ過ぎだ。それだけ食べるからには相当魔力を蓄えていると思えるが、魔法が得意ではなさそうな彼女はどこでその魔力を使っているのだろう。私と会っていない間の彼女がどう過ごしているのか分からないので、推測すらできない。


 ギヴンとクーアが作ってくれた美味しい朝食の後は、おとなしく書斎にこもって仕事にとりかかった。食堂から書斎へのラッテによる護送はなしだ。部屋に起こしに来たときは身構えたものの、彼女に私を監視しようという気はなさそうだ。


 手記にページ単位でかけられている暗号魔術と真面目に向き合った結果、私の解読スピードはまた少しだけ上がった。

 手記は一ページずつ暗号魔術をかけられていたから、ラッテの主人である魔術師イオリはずいぶん用心深い性格かと思っていた。でもそれは違うなというのが、今の見解だ。


 たぶんイオリは、一ページ書き終えるごとに暗号魔術をかけるのが癖になっていた。


 その証拠に私が解いてきたものはどれも同じルールの暗号魔術だし、術者特有の癖を隠す気もない。魔法の綻びさえ修復してしまえば、暗号魔術はあっさり解けた。


 イオリの周囲には、彼がかけた暗号魔術を解ける腕前の者がいなかったようだ。イオリが持つ魔法の能力が高いという話ではない。単純に、魔法を扱える者がいなかったんだと思う。


 それほど、イオリが手記にかけた暗号魔術は簡単なものだったから。


 七ページ分の魔法をスムーズに解除したところで、椅子に座ったまま大きく伸びをする。机の端に置かれている置き時計を見れば、昼食までまだ一時間以上あった。

 続きに手をつけようとしたところで、部屋がノックされる。ラッテかと思いながら片手間に返事をしたら、訪問者はクーアだった。


「どうした?」

「お茶を持ってきたの。昨日も飲みに来たでしょ?」


 たしかにクーアが持つトレイには、質素な白いティーカップとクッキーが盛られた小皿が載っている。


「よくここが分かったな」

「ラッテさんがキールの朝食を取りに来たときに、あなたの仕事場所を訊いておいたの。あなたと友達だって言ったら、すんなり教えてくれたわ」


 ずいぶん危ない橋を渡るものだ。だがこうしてクーアに差し入れを許可しているからには、ラッテにとってクーアは本当に警戒すべき対象でないのか。私が動くよりクーアに色々頼んだ方が安全かもしれないと考えそうになって、すぐにそれを消し去る。クーアをわざと危険に巻き込むなんて絶対にだめだ。


「エルはここでなにしてるの?」

「暗号魔術をかけられた手記の解読作業だ。これが終われば、きみとキール、それに私は解放される約束になっている」

「そんなに凄いことが書いてあるんだ、その本」

「ここの城主の手記らしいが、ラッテが中身を知りたがっているからには凄いのかもしれんな。そうだクーア、防御魔術をかけさせてくれ」

「防御魔術?」


 机に茶とクッキーを置いてくれたクーアに近づき、その頭にフード越しに触れる。私の手の周囲に細い光の輪が浮かび、それはクーアに吸い込まれるようにして消え去った。


「私たちは毎朝、子供になる魔法をかけられている。きみの記憶が薄れていたのは、その魔法のせいだ。毎朝の魔法を防ぐようにしたから、これで忘れる心配もなくなる」

「急に大人になったりしない?」

「それはない。成長にするにしても、普通の成長と変わらない速度だ」

「ふうん」


 クーアの返事はどこかぼんやりしている。私が解読中の手記が気になっているのか。自分たちの処遇が関係しているのだから、興味をそそられないわけがない。それに、壁に精霊関連の魔導書がみっちり詰まっているこの書斎には、クーアの興味を惹くようなものは存在していない。


「解読できたページの内容が知りたいか?」

「知りたい!」


 話を振ってみれば、クーアは元気に返事をした。

 手記の内容は他言してはならないと言われてないので、構わないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ