表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルクラートさんちの夢喰日記  作者: Akira Clementi
第十四章 私の世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/109

第百四話

 クーアを助け起こす私のそばで、キールはやる気満々だ。好戦的な性格のハルピュイアはいい戦力だ。


 心配があるとすれば、私たちが子供の体という点だが。使える魔力は多くはない。


「キール、おまえの風切羽はこの魔術空間を抜け出て私のもとに届いた。ハルピュイアが使うあの魔法は、どんな場所からでも抜け出せるのか?」


 ラッテがこの魔術空間の支配者であるからには、出入りするルールは彼女が定めたものだ。リヴィーの為に存在するだけのイオリが権限を持っているとばかり思っていたから帰還魔法は問題なく使えそうだと思っていたのだが、ラッテがアガシオンであるという話のせいで私の中では疑問が生じていた。

 一か八かで使うには、帰還魔法は魔力の消費が大きい。失敗したときの危険に対処できるか不安だ。


 私の問いに、キールはすらすら答えてくれる。


「風切羽を魔力で強化して、矢みたいに飛ばすんだ。力負けさえしなければ、どんな障害でも羽根一枚分は貫通できる。羽根を守る機能はないから、なんかされたら損傷はするけどな」

「ふむ」


 羽根一枚分は貫通できる魔法。原理としては攻撃魔法に近いのか? だとすれば、ラッテの魔術空間は力任せでも突き抜けて出られるのか。


「それよりエル、あいつ……うわあ! 撃ってきた!」


 ラッテが放った大きな雷球に対して、キールが障壁魔法を張る。雷球はキールの張った障壁に阻まれ、その場で爆散した。爆ぜる瞬間は目を閉じていたのに、それでも強すぎる光のせいで視界に残像が残る。


 昨晩のイオリほどではないとはいえ、ラッテも大容量の魔力を蓄えられるアガシオンなのだから、攻撃魔法もそれなりに威力があった。ただその魔力を魔法として使うのはやはり苦手なようで、子供のキールがなんとか相手をできる程度でしかない。


「エル、どうする!」

「すまないが今考えているところだ。そっちはキール、おまえに任せた」

「嘘だろおっ!」

「本気だ」


 ラッテの相手はキールでも問題ない。

 さて、では考え事を……と思いかけた私の視界で、イオリの根が天井の穴からちょろりと生えてくる。しつこい。


「クーア、きみにはこちらを任せたい」

「なんか変なことじゃないわよね?」

「とても大事な役目だ。天井の穴から木の根が生えているのが見えるか? あれに火を点けて欲しい。生えてきたら生えてきただけ点けてやってくれ」

「分かったわ」


 今度は壁役にしなかったからか、クーアは素直に引き受けてくれた。クーアがどこまで魔法で火を操れるようになったかは確認していないが、私のところにいた頃はランプに火を灯せたので心配はない。


 魔法を放つキレ散らかしたラッテと、それを防ぐキール。

 イオリの根に火を点けるクーアと、彼方から聞こえてくるイオリの悲鳴。


 騒がしいことこの上ないが、とにかくどうしたらいいのかを考える。


 私のもとに届いた風切羽が損傷していたのは、キールを閉じ込めていたイオリの魔法を受けたからだった。

 そんな風切羽は、袋を吹き抜けるようにして魔術空間から飛び出し、私のもとへと飛んできた。

 つまり魔術空間から抜けるにあたり、危険はない。


 しかしただ抜け出しても、私がバクの通り道を通って到着したあの廃墟に出ると思う。そうなればラッテに名前を知られている私たちは、また名前で対象を捕まえるこの魔術空間に逆戻りだ。抜けては捕まり、また抜けて……と同じ行為を繰り返すのは、無駄でしかない。


 魔力が残り少ないイオリは、ただのちょっと動く木だ。魔術師だった彼は魔法を操る使い魔『アガシオン』の作り方を知ってはいるものの、あれはすぐにほいほい作り出せるほど単純な構造をしていない。作るのには何日もかかるから、相手の戦力はこれ以上増えない。


 そこまで考えて、私は気がついた。


 難しく考えすぎだ。

 たしかにラッテは、この魔術空間そのものだ。毎朝私たちに子供になる魔法をかけ、女を模した器官で大量の食事をして魔力を魔術空間に供給している。


 だが所詮は有限の空間。

 私たちはラッテという箱の中にいるようなものである。


 だったら、中身を溢れさせて壊してしまえばいい。


「キール、ラッテの頭がパンパンになるくらい大量の夢を詰め込めるか? あいつは普通の魔物ではない。とにかく馬鹿みたいな量を詰め込んで欲しい」


 キールは夢屋ではないが、夢屋の適性が高いハルピュイアなので種族の本能として夢を作り出す方法を知っている。私は夢というと喰らうしかできないので、ラッテを溢れさせるなら夢をほいほい作り出すキールが適任だ。


「防御代わってくれるならできるぞ!」

「よし、代わる」


 ラッテの雷撃魔法を防いでいたキールと交代して、障壁魔法を張る。この場ではとても役立つバクのローブはクーアに持たせたままだったから、こうするしかない。


「クーアちゃん、いつものあれやろう! 特大のやつ!」


 キールがよく通るその声で、元気いっぱいクーアを呼ぶ。

 いつものってなんだ。なにをする気だ。


「いっくぞー!」


 キールの声に不穏なものを感じ、私はつい彼の方を振り向いてしまった。

 並んで立ったキールとクーアが力を合わせ、自分たちの背丈の倍はありそうなピンク色の光の玉を作っている。夢屋でよく売れる甘い夢の色をしているが、まさかその光球は、全部そんな夢なのか? 見ているだけでその色から甘ったるさを感じてしまい、胃もたれで思わず小さなげっぷが出てしまう。


「喰らえ! 乙女のとろける桃色ロマンス爆弾!」


 キールとクーア、二人の声が重なった。なんだその恥ずかしい名前は。もう少しまともな名前にしようとは思わなかったのか。キール、おまえ吟遊詩人なんだからその才を生かして少しは考えてくれ。


 甘い夢を作り出すのを得意するハルピュイアとハーフセイレーン。二つの種族が作り出した巨大な夢の塊が、魔法で呼び出された突風に乗って矢のように勢いよく飛び出す。それは私のすぐ横をかすめ、ラッテを真正面から飲み込んだ。

 ピンク色の綿飴が溶けるように小さくなりながら、光がラッテの中に入っていく。ひと呼吸の間を置いて、ラッテは糸が切れた操り人形のようにその場にくずおれた。


 周囲の景色が砂で出来た絵のごとく、さらさらと崩れ始める。魔術空間の管理に使われているラッテの頭脳的部分が限界を超えた証拠だ。


「へへへ。どうだエル? 俺たちの協力技、凄いだろ」

「旅の間けっこう危ないときもあったけど、この技があれば余裕よ」


 夢を作り出すことに長けた鳥たちが、私の前で胸を張る。なるほど。野盗や野の魔物に襲われたら、この技で夢を詰め込んで意識を奪い、その間に逃げているのか。まともに戦うより面倒ではないし、クーアも危険に巻き込まずに済む。


 うん、素晴らしい。


 素晴らしいんだが。


「威力はともかくとして、名前はもう少し考えた方がいい」


 崩れゆく世界の中で、私は重い疲れを感じながらそう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ