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エルクラートさんちの夢喰日記  作者: Akira Clementi
第十四章 私の世界

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第百一話

 白い満月が城の真上で冴え冴えと輝く真夜中。私とクーアは、ラッテの部屋の前で肩を並べ、室内を透視魔法で覗いていた。



「ねえエル、ラッテさんどうしちゃったの?」

「あれが彼女の仕事だ」


 ひそひそと問うてきたクーアに、そう応える。


「ラッテはこの魔術空間の口であり、手であり、脳だ。ああやって食事をしてこの魔術空間の魔力を補っているんだよ」


 私たちが覗く室内は、異様なものだった。部屋のテーブルやベッドには名前を列挙するだけでも満腹になりそうなほど食材が山ほど盛られ、椅子に腰かけたラッテはブレッドを一斤持ってそれにかじりつき、ひたすら食事を続けていた。


 ラッテはこの城でメイドとして働いていない。外からひたすら食料を集めてきて、こうして食べまくり、魔術空間に魔力を供給している。

 一日食べるのが仕事であるから、ラッテは身の回りやこの城の世話をする暇がない。魔術空間の外から誰かをさらってきては、魔法で少しの食料で済む子供の体に変えて、働かせているんだと考えられた。


 ラッテは綺麗に食べているが、あまりの量に見ていて少し気持ち悪くなってきた。我が大食らいの友人リザの食事量もなかなかだが、あれがましだと思えるくらい、ラッテは食べまくっていた。


 私にひざ掛けをくれた日に部屋の外で待たされたのは、この食料だらけの部屋をみられたくなかったんだろう。こんな部屋を他人に見せるのは、ラッテが異常な存在だと自らばらすようなものだ。


「エル、魔法で眠らせられる?」

「いや、やめておこう。たしかにラッテを眠らせればあの大木に供給される魔力も減るが、ラッテは特殊な使い魔だから睡眠魔法が効くか分からん」

「じゃあ夢を取り出しちゃえばいいんじゃないの。いつもみたいにヒュッて。そしたらおとなしくなるわよ」

「簡単に言うな。取り出す前に暴れられたらどうするんだ。きみは暴れるラッテを取り押さえていられるのか?」

「できないわね……」


 私がラッテを拘束してその間にクーアが夢を取り出すのは無理だ。クーアは自分が作った夢を売って夢屋の真似事をしているだけで、他人から夢を取り出す術を知らない。


 けれども私たちは、まだやれることがある。


「クーア、ラッテが食事に精を出している今のうちだ。木の方をどうにかしよう」

「分かった」


 クーアもラッテの様子を見て、鍵を盗むのは無理そうだと分かってくれたようだ。


 ラッテはよほど食事に集中しているのか、透視魔法で覗かれているとは全く気づかなかった。彼女がこちらの動きに感づいていないこの状況を利用してイオリを無力化する方が早い。


 たしかに昨日イオリが使った魔法は強力だったが、いくらラッテが食べまくっても、地面をえぐり焼き焦がすほどの魔力を一日で完全に補充できるわけがない。イオリの魔力が残りどれくらいかは知らないが、弱点が一切不明のラッテよりはドリアード化したイオリの方がまだまともに相手できそうな気がしていた。

 誰かに見られないようバクのローブに二人で隠れながら、イオリのもとへとむかう。


「エル、あの木にどう対抗するの?」

「夢を取り出す。失神させて、その間に解錠魔法でドアを開ける」

「昨日みたいに魔法使ってこない?」

「その為のこのローブだ。すぐに二人とも隠れられるように、私が夢を取り出している間はきみが持っていてくれ」


 私ひとりならフードをさっと被れば済む話だったが、クーアを置いてこようとは思わなかった。キールさえ見つかれば脱出できる。キール救出後にわざわざ部屋に迎えにいくよりも、そばにいて欲しかった。


「あの木ってさ、なんで昨日はあんな魔法が使えたわけ? 木よね?」

「あれはただの木ではない。この城の城主だった魔術師イオリが、精霊ドリアードと一体化した姿だ」

「えっ、あれが城主?」

「そうだ。嬉々として閉じ込めた愛しのウンディーネを瀕死にしてしまったから、ああやってウンディーネと相性のいい精霊になって、自らの中で凝縮させた魔力を与えているそうだ」

「うわあ、やだあっ、気持ち悪い!」


 クーアや心底嫌そうな声を出した。イオリは人に嫌われる方法を考える才能がある。もっとも世の中には別の変態もいるから、イオリの変態性を好むやつがいてもおかしくはないが。だとしたら変態同士仲良くしていてくれた方が皆心穏やかに暮らせるのだが、なかなかそううまくはいかないから残念だ。


 そんな話をしているうちに、イオリのもとへと辿り着く。クーアにローブを持たせて私だけそっと抜けてみるが、そばに立つだけではイオリはなんの反応も示さなかった。これならいけそうだ。ローブから出ていいと、クーアに合図する。


 イオリを前にするとさすがのクーアも少しばかり不安なようで、私を見る紅の瞳が揺れていた。二人でいたら大丈夫だという気持ちを込めて、彼女と手を繋ぐ。


 イオリに歩み寄り、暗い色の樹皮に右手をかざす。イオリはまだ静かだ。

 さっさと失神させてしまおう。治癒魔法のおかげで手はすっかり綺麗に治っているから、いつも夢喰いをするのと同じ感覚でイオリの夢をスムーズに取り出せる。


 イオリにかざした右手を、くるくると反時計回りに回す。変態という先入観からどんな気色悪い色と匂いを持つ夢が出てくるのかと思ったら、樹皮から出てきたのはうっすら白くて匂いらしい匂いもない細い煙だった。まるで水蒸気だ。


 清らかなドリアードと一体化したおかげで、イオリの邪悪な部分が浄化されたのか?


 右手は糸が絡まるような感覚を伝えてくる。イオリの夢はしっかり掴めている。

 このまま夢をどんどん取り出そうとしたときだった。


 ミシミシと幹が軋む音と、クーアが私を呼ぶ声が重なる。


 間一髪のところで、私はイオリが放ったピンポイントの雷撃を避けた。


「すまない、クーア」

「いいのよ。あなたが無事ならそれで」


 無事ではあったが、イオリの夢を手放してしまった。

 昨日のようにイオリが魔法で雷球を作り始めるかと身構えるが、そのイオリの様子がおかしい。


「貴様ら、どこから入り込んだ」


 なんと大樹の幹に大きな老人のものと思しき顔が浮かび上がり、しわがれた男の声で喋ったではないか。老齢のドリアードはまれにこうして人を模した顔を作り喋るとは知っていたが、実際目にしたのは初めてだ。なんだかいいものを見たような気がして、つい心が弾む。


「人のそばでイチャイチャしおってからに! どんな教育を受けてきたんだ!」


 変態じじいもといイオリが、その顔を醜く歪めた。


 こいつまさか、昨日魔力を使い過ぎて大した魔法を使えないのか? だから攻撃する代わりに喋り出したのかもしれない。


 せっかく喋ったのだからなにか訊いてみたいが、なにを訊こう。ドリアードの体での暮らしぶりとか、そういうのがいいだろうか。

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