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エルクラートさんちの夢喰日記  作者: Akira Clementi
第十四章 私の世界

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第百話

 よく食べるラッテの隣で昼食を食べた後は、書斎に戻って変態日記の解読作業を続けた。ラッテについての記述がどこに出てくるか分からないので、順番通りにページを繰って魔法を解き、読む。


 捕らえたリヴィーがすっかり弱ったことで、イオリの生活にも大きな変化が出てきた。


 自分がリヴィーにいらぬ穢れを運んでしまったのではと考えたイオリは、リヴィーに会う前は沐浴をするようになった。それだけではない。食事はフレッシュな野菜のみになり、やがて陽の光という自然界で最も強い魔力を集めた水だけを口にするようになっていった。


 己の体をウンディーネに近づけようとしたのだ。


 無理がありすぎる。この日記を書いていた頃のイオリの種族がなにかは知らないが、きちんと体に合った食事をしなければ生きていけない。


 私もクーアがウンディーネであれば同じことをしたかと考えて、すぐにそれはないという結論に至った。クーアがウンディーネだとすれば、山や森にはまず行かない私とは出会わない。もし出会ったとしても、ウンディーネは水風船みたいなものだと分かっているからなんの感情も抱かなかったと思う。彼女を城に閉じ込めて我が物とするとか、そういう話以前の問題だ。


 そんなくだらない思考を挟みながら、作業を進める。イオリの魔法のかけ方は単調だったから、術式修復さえ終われば解読は鼻歌を歌いながらできるようになっていた。


 ラッテについての記述はまだ出てこない。それでも彼女にはなにかあると、第六感が囁く。

 城を貫くような大樹にあれだけの魔力が宿っているのは、魔術空間という場所の特性上不自然だ。だから疑うべきはイオリの味方であるラッテであり、警戒するのもラッテである。それは間違いないという気がしていた。


 ラッテは私に目をつけているようだが、まだ泳がせてくれている。

 私が彼女に従順であるという姿勢を示すにも、解読作業を続けるのは都合がいい。


 暫く作業を続けたがあまり内容に変化が見られず、再び後ろのページからの解読に切り替える。

 その甲斐あって、一時間ほど作業を続けたところで私はついに日記の中にラッテの名前を見つけた。


 イオリはドリアードと一体化するにあたり、リヴィーを連れて魔術空間に引きこもることにしたそうだ。たしかにここならばイオリが誰かに切り倒される心配もないし、リヴィーに穢れを持った者が近づく危険もない。

 しかしイオリが必要としたのはリヴィーの為に造った城を再現できるほど広い空間で、大樹となるイオリの魔力を充分に補給できるというものだ。基本的に魔術空間は魔法で作る単なる空きスペースみたいなものだから、イオリの願望を叶える条件を満たせない。


 そこでイオリは作り出したのだ。

 自ら考えて行動し、状況に応じて魔法を操り、魔術空間の管理ができる非常に高度な使い魔『アガシオン』を。


 変態ではあるが魔術師だけあって頭はいいイオリが作り出したアガシオン『ラッテ』は、魔術空間そのものだった。


 私たちがラッテと呼び日々接している女性。あれは魔術空間の口や手であり、脳だ。無害な姿で自ら食料を集めてきてそれを食べ、魔術空間内に生えているイオリに魔力を供給し、魔術空間を管理するのが役目である。


「これは困ったな……」


 ラッテがアガシオンであると分かったのまではいいが、新たな問題が浮上してつい言葉が零れ落ちる。


 当然ながら、アガシオンは種族ではない。そういう使い魔の種類というだけだ。コーヒーの飲み方にエスプレッソやカプチーノなどの種類があるのと一緒である。

 そしてアガシオンはそれを作る魔術師の創意工夫がこれでもかと込められる特別製の使い魔なので、ほとんどが唯一無二の存在だ。


 なにかしらの魔物であったなら種族が分かれば弱点も突けるが、この世にたった一体しかいないラッテはその弱点が不明だ。残念ながらイオリの日記にはそんな話が書かれていない。当然だ。自分が考える最強の存在について自慢げに話をするとき、わざわざ弱点まで教えようとは思わない。


 だからラッテには睡眠魔法が効くのかすら不明だ。


 日記をさかのぼればラッテの構造についてのメモがあるかと思ったのだが、残念ながら一文字もそんな気配を感じさせてくれない。そういったものは全てイオリの頭の中だ。仕方ない。私だってアガシオンを作るとなったら、ご丁寧にどこかの誰かに向けて説明書を書き記したりはしないから。


 自分の使い魔については、自分だけが分かっていればいい。


 城の真ん中にそびえるイオリは、リヴィーへの魔力供給の道具であり、単なるドアの守衛でしかなさそうだ。


 本当に危険なのは、私たちをその中に飲み込んでいるアガシオンのラッテで間違いない。

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