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第九十六話『いつもと同じ……?』

「おはよう、お母さん。」


「おはよう、顔洗っておいで、朝ご飯できてるからね!」


「うん、ありがとう。」


洗面台にたち、鏡で顔を確認する。クマが最近濃くなっているのを感じる。そんなことよりも昨日の疲れが全く取れていないように感じた。なんとなく体が思い、蛇口から水を出し、冷たい水を手に当てると、なぜか家の蛇口とは違う蛇口を思い出した。


(なんだろう、ヨーロッパみたいな……?夢でも見てたのかな?)


そう思いながら、温水へと蛇口を捻った。


「行ってきます。」


歩いて駅に向かいながら、駅ビルの大きなテレビが天気予報を告げていた。


『今週の土日、東京は一月並みの気温となり、初雪が観測されるかもしれません。』


『早めに衣替えをしないとですね。』


『明日は暑いですが、服をどうするのか考えないとですね。』


キャスターが天気を告げ、ゲストの芸能人らしき人がコメントを告げている。


「……雪。」


私はやけに”雪”という単語が頭にこべりついた。


 駅につき、目の前に電車が止まる。いつも通っている道のはずなのに、


(こんなに人って多かったっけ?)


(こんなに段差小さかったけ……?)


などとよく分からないことを考えてしまった。朝起きてから、不思議な感じがする何かが私から欠けているように感じる。でもそれが何か分からない。


学校に着いてからもなんとなく、いつもと景色が違うようにも感じられる。


いつもと同じ駅


いつもと同じ道


いつもと同じ席


何が違うのか言語化ができない。頭を悩ませていると友達が声をかけてきた。


「だいじょぶ?顔色悪いよ〜。」


「そうかな……?」


「なんか悩みとかあるの?寝れなかったとか?蝋燭はリラックス効果あるんだよ!使ってみない?」


いつも蝋燭のリラックス効果を話す人だ。蝋燭仲間を増やしたいらしい。最初に蝋燭を貰った以来、いつも断っているのに、今日は何故か


「使ってみようかな?」


と言葉に出ていた。


「ほんとに?やっった~!!一緒に蝋燭仲間になろうね!」


目を輝かせながら私の方を見た。蝋燭が何故か懐かしい感覚を覚えさせたのだ。そんな昔に私は蝋燭を使っていただろうかと考えながら、彼女の提案に適当な空返事で答え、一限の授業の準備をした。


学校が終わり放課後、今日は世界史の論述の練習をすると決めていた日である。塾の授業を終え、数学の解き直しをする。復習は大事だとよく言われていた。


授業中に解いたわからなかった問題を解説を思い出すように一から解き直しをする。そしてそれが終わったら決めていた自習内容を行う。リュックから論述用の問題集を取り出し、前回解いたところから復習をする。


『アメリカ独立戦争の発生の理由について北部と南部の対立の構造を意識して、300字から400字で述べなさい。』


その後に条件が書かれているただのよくある記述問題。なのに戦争という言葉に妙に心が騒いだ。何故か涙が溢れ出てくる。


(なんで……?)


その疑問を押さえつけ、涙を抑えるように服の袖で目を覆う。自習室が仕切りで覆われていて、周りから顔が見えないようになっていてよかったと心底思った。


涙が止まらない。


でも、涙を止めないと勉強ができない。


勉強ができなくて、国公立に行けなくなって、私立に行くことになったら……?


そう考えると、涙が引っ込んだ。塾にも行かせてもらっているのに、私立の学費にお金を使うわけには行かない。私立を受験するのにも、私立を第二志望として抑えておくにもお金がかかる。入学金だけで30万。その事実が、私の心をどんどんと冷静にしていく。


もし、私立も全落ちしたら、浪人するかもしれない。浪人したら、また100万円を塾代として払うことになるかもしれない。そんなことはしてはいけない。ただでさえ、親のお金で勉強して、大学にも行かせてもらうことになっているのだから。


水を飲み、ほてった頬を抑え、体の体温を必死に下げて、机に向かった。今は別のことを考えている余裕なんてこれっぽっちもない。そう思い、机の方へと意識を集中させた。


 帰宅して、ご飯を食べる。今日はシチューでお母さんが鍋で温めて、私の帰りを待ってくれていた。


「美味しかった。ありがとう。」


そういうとお母さんは決まっていつも同じようなことを言う。


「よかった〜。この後も勉強?頑張ってね!」


そう言って、私の食器を洗う。私はお風呂に入り、髪を乾かしたところで、部屋に戻った。


(……蝋燭、つけてみようかな……?)


そう思い、奥の方にしまってあった蝋燭を探し当て、リビングからライターを取り出し、自室で火をつける。火の明かりが優しく部屋を包み込む。ロウが少しずつ溶けていくのをゆっくりと眺めていた。


「……ティレ。」


不意に自身の口から出てきた言葉に耳を疑う。知らない単語が自身の口から出てきたことに、訳がわからなくなったが、蝋燭を消そうとも思わなかった。暖かく、懐かしい感じがする。とても心地がいい。


(確かに、リラックス効果があるのかも知れない。)


蝋燭を見ながら思い、毎日の日課である単語帳をめくり、日課が終わるまでの間、私の部屋を暖かい灯りが包んでいた。

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