第九十三話『帰路へ』
「もう帰るんですか?」
そう聞くとロジェさんはうなづいた。卒業証書を貰ったロジェさんは着替えて少しラフな格好になった後、私にモリ・ハルドに帰ることを告げた。私の部屋に居るロジェさんはなんだか新鮮な感じがする。
「リン、私が学校に、いることよく思わない、人いる。」
「そうなんですか?」
ロジェさんは首を縦に振ってうなづいた。よく思わない人がいると言うのは、以前言っていたロジェさんが軍人の子供であると言う点だろうか。もう帰ってしまうのかと悲しくなると同時にモリ・ハルドが恋しいのも事実である。
まだここには二日もいない。移動時間の方が長くも感じられた。それでも、ここで、ブレンダさんやカジェタノさん、黒鉄さんなどたくさんの人と話せてよかったようにも思う。黒鉄さんが私に研究を手伝ってほしいと言ったのは、黒鉄さん自身のジパングに興味があるからだと言うことをロジェさんの式の後に聞いた。
なぜ、黒鉄さんがジパングに興味を持ったのかはわからない。ロジェさんに対して興味があったのかもしれないし、似たような外見を持つ私に興味があったのかもしれないが、あまり深くそれ以降探っては来なかった。
「じゃあ、帰る用意しないとですね。」
「……そうだね。」
「離れるの寂しいですか……?」
そう聞くとロジェさんは首を横に振った。
「……みんなの顔、が見れて、よかった。だから、もう大丈夫。」
「そうですか……?」
「うん、それよりも、モリ・ハルドが恋しいかも。」
その発言に私は笑ってしまった。
「同じですね!」
そういうとロジェさんも笑った。
翌朝、服をたたみ、モリ・ハルドから持ってきていた様々なものをトランクに詰め、トランクをもち、ロジェさんの元へと向かった。ロジェさんもとっくに準備ができていたらしく、私に向かって、
「リン、おはよう。」
と声をかけてくれた。
「おはようございます。」
そう言い、門の前へと向かうと、ブレンダさんとカジェタノさんがいた。二人とも手を振って門の前で待っているのが目に見える。短い間であったが、私と意思疎通をしてくれようとしたり、一人にさせないようにしてくれるなど、たくさん気を遣ってくれた。本当に二人には感謝しても仕切れない恩がある。
「ありがとうございました!」
精一杯のつもりでお礼を言い、頭を下げると、ブレンダさんは私の頭を撫で、抱きしめてくれた。
「morke.」
その言葉だけで私はとても嬉しかった。ブレンダさんは私の背中を優しく叩いて、頑張ってねと言わんばかりに軽く押し出してくれた。カジェタノさんとロジェさんは私たちのことを優しく眺めていた。
二人とも船に乗るところまで一緒に着いてきてくれた。帰るのは少し名残惜しい感じもする。モリ・ハルドへの帰路に一人足りないような感触も覚える。船の汽笛が鳴る。もう別れの時間だという、その汽笛の音が少し寂しく感じられた。
ブレンダさんは最後に私のことをもう一度抱きしめた。
「じゃあ、行こう。」
ロジェさんはそう言って、私のトランクを持ち上げた。
「はい!」
そう言って、船に乗り込む。船の甲板の上に立つと、カジェタノさんとブレンダさんが手を振っているところが見えた。私とロジェさんはその光景を見て手を振る。手を振るとカジェタノさんは腕をさらに大きく振りながら返してくれた。
船がゆっくりと動き出す。私は二人が見えなくなるまで手を振り続けてくれていたのが、とても嬉しく感じられ、思わず、笑みが溢れ出した。




