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第九十二話『学位授与式』

 正式な服に着替え、髪をロジェさんに整えてもらった後、いよいよ学位授与式となった。


学位授与式はこの学校内にある教会の中で行われるらしい。教会にはたくさんのいくつか歳を重ねていそうな厳格そうな人たちが集まっており、生徒と見られる人たちはまばらであった。思ったよりも規模が小さく、ざっと数えても100人はいなそうであった。


ロジェさんは深く深呼吸をしている。やはり、緊張しているようであった。生徒たちは原則後ろの席側となるようで、ロジェさん一人で前の方へ行くようである。


「ロジェさん、緊張してますか……?」


「……とても。」


なんと声を掛ければいいのだろうか。頑張って、は頑張っている人に言う言葉ではない。大丈夫、は何が大丈夫なのかいまいちよく分からない。すぐ終わるから、は論外である。こんなに緊張しているのだから、重いものであるのは事実なのだろう。


「ロジェさん!……ロジェさんのことちゃんと見てましたから!大丈夫……じゃなくて、ロジェさんに相応しいものだと思います、から!平常心で……えっと、いつもの調子でいきましょう!」


(咄嗟に変なことを言ってしまった……。)


そう思い、顔が熱くなる。ロジェさんの方へとゆっくりと顔を上げると、少し驚いた顔をした後、笑って言った。


「ありがとう。」


その言葉がなぜかひどく嬉しかった。カジェタノさんやブレンダさんも


「****、********!」


「***、**!****!」


と言いながら、ロジェさんの背中を叩き励ましている。先ほど、だいぶ緊張がほぐれてきたようだった。


(よかった。)


そう思っていると、背後からふと声がした。


「roje.」


黒鉄さんだった。黒鉄さんもちゃんと正装をしている。そんな黒鉄さんを見て、ロジェさんは目を見開いた。黒鉄さんもロジェさんに何かを言っている。カジェタノさんやブレンダさんも口出しすることはなかった。ロジェさんは少し微笑んだ後、黒鉄さんと硬く握手をしていた。


 後ろの席の方で、ロジェさんのことを見守る。讃美歌のような歌が流れ、人々の視線が前の方へと向く。教会の窓は大きな花のようなステンドグラスで、美術の授業や世界史の授業で習ったバラ窓を想起させるようだった。そこに光が差し込んでいる。


どうやら今日、卒業証書を受け取るのはロジェさんだけのようだ。一人のためにここまで行うのかと思うと少し驚きである。窓からの光を受けながら、アレック先生が前に立っている。ロジェさんがゆっくりと入ってくる。先ほどと違い、四角い帽子をかぶっているのが印象的だった。アレック先生が、


「***、*****、〜」


と何かを読んでいる。


(あれが、卒業証書だろうか。)


そう思いながら、前を見つめていた。そして、読み終わった後、軽く、ロジェさんの帽子を持ち上げ、頭を優しく叩く、どちらかというと撫でるような動作をした後、ロジェさんが縦長の賞状を受け取った。みんなが拍手をする中、私も負けじと拍手をする。


隣から何か、鼻を啜る声がして、見てみると、カジェタノさんが号泣していた。そのことに驚いていると、さらに私の反対側からも鼻を啜る音がして、みるとブレンダさんも涙を堪えていた。ロジェさんが何かかけてきた執念はちゃんと周りの人に伝わっていたのだと、感じ、私も学生時代のロジェさんを知らないにもかかわらず、感動で泣きそうになっていた。


この式はどちらかと言うと神秘的な感じであった。光さえも、まるでロジェさんを讃えているようであった。雨音のように鳴り止まない拍手がようやく鎮まり帰り、ロジェさんも軽く正面を向いてから会釈をした後、出口の方へと向かっていった。


 式を終えたロジェさんの元へと向かうと、ロジェさんは私たちの顔をみるなり、ギョッとしたような顔をした。ブレンダさんも結局その後、号泣してしまい、二人が自身の卒業式のようなものに泣いていたらそのような顔をするのも仕方ないように感じる。


カジェタノさんは、ロジェさんに


「******!」


と言いながら抱きつき、ロジェさんは卒業証書が折れないように持ち直しながら、カジェタノさんの抱擁を受け入れていた。ブレンダさんも、


「******!」


と言い、嬉しそうにロジェさんに微笑んだ。ロジェさんは少し困惑している様子ではあったが、二人の言葉を聞いて嬉しそうに笑って返した。


カジェタノさんが離れた時、ロジェさんが少しズレた帽子を整えた時に私も


「おめでとうございます!」


というと、


「ありがとう!」


と元気な笑顔で返してくれた。

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