第九十一話『正装』
和解のようなことをしたその後に、私たちは部屋に案内された。一室を貸してくれるようで、カジェタノさんやブレンダさん、黒鉄さんとは別れ、別の人が案内をしてくれた。ロジェさんと私とでは部屋が別れていた。
「また、明日。」
そう言い、ロジェさんは隣の部屋へと戻っていった。私も部屋に入る。部屋はベッドが窓の近くに置かれており、ハンガー掛け、机、椅子、そして一人用の小さなソファなどもあった。質素な部屋であるが、とても快適に過ごせそうである。さらに、部屋の隅に置かれている小さな椅子のような机には花瓶と花が飾られていた。
(……なんだろう、この小さな箱……?)
花瓶の横に小さな箱が置いてあり、触ってみると、ダイアルのようなつまみが二つほどついた、スピーカーのようなものであった。
(もしかして、ラジオかな……?)
そう思ったが、ラジオなんて現代的なものであってもいじったことがない。ラジオは車の中でたまに流し聞している程度である。あまり、変なところをいじると、壊れてしまいそうなので、興味はあったが、すぐに触るのをやめ、元の位置に戻した。
さらにロジェさんの勉強の成果を讃える式は明日すぐに執り行われるらしい。明日は楽しみであるが、今日はたくさんの出会いがあり、疲れてしまった。
ブレンダさんは、古代言語学の唯一の女性の学者ですごい人。黒鉄さんは、英語である、ここの世界ではブリタニアン語と呼ばれるものを話せるすごい人。ロジェさんの知らない一面も知れたような気がした。
(明日の式ってどんな感じなんだろう……めっちゃ厳格なものだったらどうしよう……私こっちの世界の礼儀作法とかよく分からないし……。)
急にそんなことを思ったら不安になってしまった。
翌日になり、朝日で自然と目が覚める。簡単に服を着た後、扉を叩く音がした。
「はい。」
返事をしながら、扉を開けると、ロジェさんが立っていた。ロジェさんは真っ黒のローブを着て、髪をオーバックにして、綺麗に整えていた。
「わ、私、起きるの……遅かったですか……?」
ロジェさんが綺麗に整えられているのを見て、かっこいいと思うと同時にとても遅くまで寝てしまっていたのではないかと焦ってしまった。ロジェさんはその発言に目を恥ずかしそうに、目を伏せながら、
「今日、だから。緊張して、早く、起きた。」
と言った。そう言って、誤魔化しているが、目元のクマが見える。
「大丈夫ですか……?寝不足みたいですよ……?」
「分かる……?」
「分かります。クマ酷いですよ……。」
「クマ……?」
「えっと、寝不足の時にできる、目の下のこう、えっと、目の下にできる青色の線?みたいなものです。」
「そう……。」
そう言って、ロジェさんは少し焦って、自身の目の下を擦る。そのようなもので消えるものではないけれど。ロジェさんは、一生懸命に目を擦り、
「消えた……?」
と言っているが、本人は必死であるが、それがあまりにもおかしくて、笑ってしまった。
「き、消えるものでは、ないですよ。」
「消えないの!?」
「は、はい。」
クマの概念自体があまりこの世界にはないのだろうかと思った。ロジェさんは焦っているが、そこまで顔色が悪そうなわけではないので、大丈夫だろうと思う。ロジェさんは私が笑っているのを見て、少し気持ちが和らいだのか、恥ずかしそうに微笑みながら、
「早く、言って。」
と冗談めかしく言っていた。私たちが話しているのを見て、カジェタノさんが遠くから声をかけてきた。
「roje!rinn!*****!」
「****。」
その声にロジェさんも返す。私がどのように返せばいいのか戸惑っていると、カジェタノさんは、少し悩んだ後、
「お、は、よう?」
と言った。私もそれに
「おはようございます!」
と返す。以前ロジェさんから教わったものを覚えているようだった。
(私も挨拶ぐらいは、覚えたい!)
そう思い、さっき、ロジェさんとカジェタノさんの言っていたことを思い出す。
(確か、)
「サウェ、サヴェーテ?」
その発言にロジェさんは目を見開いて驚き、カジェタノさんは嬉しそうにし、ブレンダさんに至っては、
「salwerde.」
と教えてくれた。
「s, salwerde!」
私がいうと、ブレンダさんは私の頭を撫でてくれた。




