第八十六話『ロジェとアレック先生の会話』
<>の中はルイーニャー語です。
三人が出ていった後、ロジェとアレック先生は二人で向かい合わせのように座った。アレック先生はロジェに
「<紅茶を入れてくるから待っていてね。>」
と声をかけ、立ち上がるが、ロジェはその発言に対して
「<結構です。>」
と返した。ロジェはアレック先生のことを真剣に見つめる。アレック先生は
「<振られてしまったね。>」
と冗談を言い、笑いながら返した。そして、椅子に座り、ロジェの方を眺める。そして
「<改めて。おかえり、ロジェ。>」
と言った。その言葉にロジェは、
「<ありがとうございます。>」
と返したあと、神妙な面持ちでアレック先生にたづねる。
「<しかし、私は除籍になったのでは……?>」
その問いかけにアレック先生は驚く。
「<ああ、そういえば、君にその話をしていなかったね。手紙には書いたのだけれど、届いていなさそうだったから。……君は除籍されていないよ。>」
「<え?>」
ロジェは驚く。ロジェはさらにアレック先生に問いかけた。
「<確かに、あの時ポリットからの学生は全員除籍になったのでは……?>」
「<その予定だったみたいだけれどね。あまりにも酷すぎるという話で、一人だけ残すことにしたんだよ。……それで君が選ばれたんだよ。君はその時はもう、モリ・ハルドにいたようだけれど。>」
「<それは……。>」
ロジェは険しい顔になった。アレック先生はどうしてそのような顔になったのかが分かったように、ロジェに話しかける。
「<私はね。君が誰の息子とか関係なく選んだし、これはこの大学全ての教授の意見だ。……君が単に優秀だったからだよ。君は努力を怠らない。……それにしても、君は本当に特別扱いが嫌いだね。>」
「<…そうですね。>」
「<でも、特別扱いしたいんだよ。だから今回来てもらったんだ。>」
アレック先生がそう言ったのを聞いて、ロジェは首を傾げる。
「<カジェタノからは、戦争による避難だと聞いているのですが……。>」
「<ああ、それは嘘だよ。>」
「<嘘!?>」
ロジェはそのことに驚いたかのように言葉が自然と飛び出た。
「<うん、そうだよ。>」
悪びれもなくいうアレック先生にロジェは不満を露わにする。
「<……冗談でも、そんな嘘は控えた方がいいかと。>」
「<いや、君はそこまで言わないと来ないだろうから。……君はこの大学で学んでいること自体に罪悪感を抱いているようだった。どんなことを言ったって、君はなかなか帰ってこないだろうから、カジェタノに嘘を言ってもらった。だから、これは私のついた嘘だ。許してくれ。>」
ロジェは顔を少し逸らす。アレック先生は、
「<図星だね。>」
と言った。ロジェはその言葉に何も答えなかった。アレック先生は続ける。
「<君に、学位の授与をしたい。>」
その衝撃の発言にロジェは耳を疑った。この学位は一般的に学問を全て終了し、一人前の学者に送られるものであり、この世界では古代言語学の学位は最高峰のものである。その学位は全学者にとって憧れものであった。本来であれば、卒業式の時に受け取るはずのものである。そしてロジェは呼吸を整えた後、アレック先生に向かって言った。
「<……冗談ですよね。>」
「<冗談じゃないよ。>」
「<まだ、カジェタノやブレンダ、それに……リュウだって受け取っていないはずです。>」
「<そうだ。でも君は卒業の際の学位授与式に出席しないつもりだろう?……君はもう素晴らしい学者だよ。なんと言われても、君の頭に角帽を被せるまで、私は諦めないよ。>」
「<……しかし、それは。>」
ロジェは言葉を濁す。アレック先生は機会を逃さないように、ロジェに言葉を伝える。
「<そもそも、君が学位を授与しないのはおかしいと言い始めたのは、リュウ・クロガネだよ。>」
「<……彼が?>」
「<その真意は私にも分からないけれどね。まあ、それに私も同意したんだよ。>」
その言葉をロジェは簡単に信じることができなかった。
「<君の除籍になる前、じゃないか。除籍になりそうになった直前に書かれた論文が、教授間で読まれた結果、学位に値するとなった。……それだけの話だよ。>」
ロジェはさらに信じられないという顔をした。
「<それでも、私は学位をもらうに値しません。>」
その言葉に今度はアレック先生が顔を顰めた。
「<いや、値する。私は絶対に君に学位を与える。絶対に、だ。>」
その強い否定にロジェは驚きつつも、ロジェは、少し悩んだ後、笑顔でアレック先生に返した。
「<わかりました。受け取ります。……本当に諦めが悪いんですね。>」
その言葉にアレック先生はほっとした顔を浮かべながら言った。
「<君ほどじゃないかな。ジパング研究は資料が少ないからやめろって言ったにも関わらず、今も変わらず続けているからね。>」
その言葉にロジェは一瞬沈黙したが、自身も本当に諦めが悪いと過去を振り返るのだった。




