第八十四話『作霖の人』
先ほどカジェタノさんが指で示した方へと近づいてみると、たくさんの本が並んでいた。その背表紙をよくみるとおそらく中国語だと思われるものが書かれている。
(日本語もあるのかな……?)
と思い、他のところも探してみるが、日本語のような文字は見当たらない。
(アラビア語……?こっちはスペイン語っぽい、こっちは多分フランス語?)
自身の元いた世界に似たような言語がずらりと並んでいた。以前から疑問に思っているものではあるが、なぜ4000年も前の書物がこれだけ綺麗に残っているのだろうかとも思う。さらに奥の方へと進むと、
(これって、英語?)
英語の書物が見つかった。日本語ではないが、英語は私も少しは読める。受験のために英語を勉強していてよかったとも思った。英語の表紙をなぞる。一番分厚い本には『The history of War』と記されている。さらに隣には『Advances in Science and Technology』と書かれている。
(専門書かな、読むの厳しそうだけど……)
と思いながら、さらに本棚を漁ろうとしたところで隣にいる人の存在に気づいた。その人は右手に本を持っており、左手には杖を持っている。ロジェさんと同じ年頃の人に見えるため、杖を持っていることには驚いたが、何より驚いたのはその顔だった。その顔は、日本人そっくりだった。
(びっくりした、日本人かと思った。)
日本人がこの世界にいるはずがない。もしいるとすれば、私と同じように元々の世界からなんらかの形でここまできた人だろう。その人の方に視線を向けたが、その人も私のことが気になったらしく、私の方をじっと観察するように眺めていた。そして、そのお互い観察している状況を破るかのようにその男の人は私に声をかけた。
「**、*****?」
「えっと、」
「**?」
最初の発言はおそらく、ルイーニャー語であるだろう。しかし、その後の発言はロジェさんやカジェタノさん、そしてブレンダさんどの人もこの音の発音はしていなかった。
(中国語っぽい?)
「作霖?」
「作霖!?」
この人は私を作霖出身の人だと思ったらしい。首を横に振ると、その人は表情を変えることはなかったが、その人が読んでいる本を再び開き始めた。作霖の人と私は似ているとロジェさんは言っていたが、確かにその通りだと思う。黒色の髪にしかし、その人が持っている本を持っていて驚く。
(英語が書いてある……!この人もしかして、ロジェさんたちと同じ古代言語学者?)
英語で話しかければ何か反応を示してくれるのではないかと思い、思い切って下手くそな英語で話しかける。
「Hallo……?I’m、」
そこまで言ったところで、その人は信じられないという顔をして私の方を見た。
「Do you understand Britanian?」
「あ、Yes!Yes!」
ブリタニアンはおそらく英語のこと。ロジェさんが古代言語学でアルビオン、つまりブリタニアンのことを研究している人が一番多いと言っていた気がする。この人はそのうちの一人なのだろう。まさか、日本語とポリット語以外で会話できるとは思わなかった。
この人の顔を正面から見てびっくりする。彼は大きな火傷あとが左の顔の半分についていた。古傷のようであるがかなり痛々しいものである。左の目は全く見えないのか、眼帯をつけていた。
とにかく、英語が伝わるということで、自己紹介をしてみようと
「……I’m Asakawa Rinn!Nice to meet you!」
などと中学校一年生で習うような英語で話しかける。すると、その人はさらに驚いた顔で私を見た後、さらに言葉を続けた。
「I’m ryuu kurogane.」
龍黒鉄?おそらく、感じで当てはまるとそうなのだろう。その人は私を見た後、不思議そうな顔をしていった。
「Why are you doing here?Maybe you can’t speak rui-nya-, and you aren’t the student. You look like sakurinn , however you are’t sakurinn. Where are you from?」
「あ、えっと、I’m from mori harudo!I can’t speak rui-nya-. えっと、」
なんと言えばいいだろう。ロジェさんの名前を出してこの人は分かるのだろうか。 私の顔は本当に作霖の人にしか見えないのだろう。黒鉄さんは私が作霖の人ではない人にかなり疑問を持っているようだった。それに私はここの生徒ではないということまで分かるみたいだ。
黒鉄さんは私が返答に困っているのを見て、軽く頭をかいた。
「ah……no problem. I want to know about you.」
「……me?」
「Yes, I want to know why you can understand Britanian?……I don’t female researcher of Britanian.」
私について聞かれるとは思っていなかったが、ロジェさんの話していた話を思い出す。この世界では古代言語学は最高権威を持っている。そして一番その中で有名なのがブリタニアンの研究である。そして、女性の古代言語学者はブレンダさんしかいない。そこまで考えたときにこの人が私のことを疑うのは納得できる。
このルイーニャー語という学術用語を知らないにも関わらず、ブリタニアン語を話せるとなれば、疑うのも当然である。ここは素直にいうべきなのだろうか。それとも誤魔化すべきだろうか。
黒鉄さんは、その間私のことを疑わしい目で見ていた。
(どうしよう……。素直に「実は3000年前の言語を持った別世界から来ました」なんて言っても信じてくれるだろうか。もっと怪しまれる気もする……。誤魔化すとしてもどうやって誤魔化すかが思いつかない。)
私は頭をフル回転させながら、考えた。




