第八十一話『ブレンダ』
この世界の女性は距離感が近い人が多いのではないかと思うぐらいには、距離がとても近い。前の世界では流石にここまで初対面でグイグイ来られたことはなかったのに、ディーヴさんもそうであるが、初対面でかなりグイグイ来られる率が高い気がする。
その女性は、綺麗な金髪の髪に緑色の目を輝かせ、こちらを覗くように見てきた。そして、
「あの、」
と声をかけようとすると、今度は
「***!」
と言われ、訳のわからぬままその人の腕に抱き寄せられ、頬を合わせ、スリスリとされた。これが、人間視点から見た子犬の心情なのかも知れないと、呆然とその女性の腕の中で思っていた。
(今更だけれど、今結構私臭いんじゃ……。)
と思い、少し抵抗する。しかし、女性は全くそんなことを気にしてはいないようだった。
カジェタノさんは少し笑って、私の方を見ており、助けてはくれなそうだった。ロジェさんは呆れたようにその女性に
「***、*****。」
と言った。すると、その女性は、私から腕を離して、少し距離をとった。そして、私に向かって、話しかける。
「***、*****、**!*****、**!**!*****!*****!****。**!****?」
あまりのマシンガントークのような話に何もついていけない。そもそも言葉がわからないのだけれど、ロジェさんが間に呆れたように入り、
「***、***rui-nya-.」
と言った。今ルイーニャー語と言ったのだろうか。私がその言語を話せないことを説明してくれているようだった。そのことを聞いた女性は不思議そうな顔をしていた。さらに、ロジェさんが言葉を紡いた。
「**、*****、rinn.」
と言って、ロジェさんは私の方をチラッと見た。自己紹介をした方がいいのだろうか。
「こんにちは、浅川凛です……。」
と言って、女性の方をみると、女性は
「アサ、カワ?」
と言った。よく考えれば、こちらの世界では英語圏同様、一番最初の名前が個人を表すファーストネームだ。もしかしなくても、私のファーストネームが浅川だと思われたのだろうか。
「あ、えっと、凛、rinn!です!」
と名乗ると、その女性は笑顔でうなづき、
「rinn!****、**brenda bo-hufort.**!」
と言って、手を差し伸べてきた。私は握手をするためにその手を握り返す。ブレンダ・ボーフフォート?さんだろうか。
「brenda?」
と聞くと、その女性はとてもニコニコな笑顔でうなづいた。ブレンダさんはとても嬉しそうに
「***!rinn!」
と言って、その差し伸べた手を強く握り返した。痛いわけではなく、それが、これからよろしくという強い意志のようにも感じられた。ロジェさんが私に向かって、ブレンダさんについて説明してくれた。
「ブレンダは、私の、学校の友達。一緒に、研究した、人。言葉の研究、はブレンダ、一人が、女の子。そもそも、学校に、女の子、行くこと、が難しい。だから、ブレンダは、すごい。」
女性の地位の低さがその言葉から感じ取れる。世界史で習った通り、女性の地位はこの時代まだ向上していないことが伺える。元の世界では女性も男性も学校に行くことが一般的だ。まだ、田舎では女性の大学進学に対して批判的な人がいるみたいなことは聞いたことがある。
さらにロジェさんは言った。
「ブレンダは、バルレッド、で生まれた。から、ここのこと、詳しい。」
そうなのかと思い、ブレンダさんの方を見ると、ブレンダさんは相変わらず、ニコニコと笑みを返してくれる。あまり、この世界の国のことに関しては詳しくない。他にどんな国があるのかも気になる。
「***、*****!」
とブレンダさんが言って、ロジェさんとカジェタノさんが忘れていたとでもいうように、
「***!」
と二人して驚いたような声を出して言った。この会話に入れないのが、想像以上にきつい。私もルイーニャー語が話せるようになりたいと心の底から思った。ロジェさんが私に向かって言った。
「先生に挨拶する。ブレンダは、迎えにきた、みたい。」
(先生に挨拶するってそういえば言ってた……!)
と思い出す。ブレンダさんの登場でその重要なことが飛んでいたと思った。おそらくその時、先ほどのロジェさんやカジェタノさんと同じような顔をしていたのだろうか。ロジェさんは少し笑って、
「今から、会う人は、私の考え、を大きく、してくれた、人。」
と言った。恩師のようなものなのだろうか。残念ながら私はそのような人に出会えたことはない。そんなことを考えながら、ブレンダさんの先導に従って、ロジェさんの隣を歩いた。




