第七十八話『ジェラート』
「はい、これで、大丈夫。」
「は、はい!ありがとうございます……。」
そう言って、ロジェさんは私から少し距離をとった。ロジェさんの方を向くと、
「これも、可愛い。」
と微笑んだ。カジェタノさんにも全体を見せると、とてもいいとニコニコしながら、手でグットマークを作っていた。そして、ロジェさんにカジェタノさんは話しかける。
「roje, **、****?」
その言葉にロジェさんは肯定するように微笑みながらうなづいた後、私に話しかけた。
「どっちも買う。」
「えっ!高くなるんじゃ、」
「お金、気にしない!」
「でも、」
「いいから。まだ、あるから。」
「まだ、お金があるってことですか……?」
その問いかけにロジェさんは首を振る。じゃあ何がまだあるのだろう。そう思っていると、私とロジェさんが会話をしている間にカジェタノさんが服を新たに持ってきた。
「rinn!」
「これも、着てほしい。」
「えっと、いいんですか……?」
「うん、もっと買おう。だからリン。」
そう言われて、少し嫌な予感がした。
「たくさん、着て、ほしい。」
ロジェさんとカジェタノさんが持って来た服を全て着させられ、二人がいいと思ったものは全て買うことになっていた。拒否しようとしたが、
「気に入らない?」
と聞かれるたびに、ロジェさんやカジェタノさんがひどく傷ついた顔をするので、断るにも断れなかった。こんなに服を着たことはないのではないかぐらい着せられ、かなり疲弊してしまった。その服の何十着を二人が買おうとしていたので、流石に止めに入る。
「ロジェさん!カジェさん!流石にこの量を持って、移動するのは厳しいです!」
そういうと二人はハッとして顔をして、泣く泣く何着かお気に入りものを選んで、
「これは私から、これはカジェからの贈り物。大事に、して、ほしい。」
そう言われ、それぞれから三着ずつ、計六着をもらった。
「あの、ありがとうございます!」
そういうと二人は満足そうに、笑顔でうなづいた。その場でロジェさんが最初に選んだ服を着させてもらい、そのまま着用することにした。周りをみると同じような服装をしている人が何人かおり、少し安心した気持ちにもなる。
カジェタノさんに誘われて、船の甲板にロジェさんとカジェタノさんと向かった。そういえば、船に乗ったのは生まれて初めてだった。飛行機にも乗ったことがない。そう思うとまだ元の世界でやれていないことが多くある気がした。船の揺れを感じながら、三人で夕焼けを眺めた。とても綺麗な夕焼けで惚れ惚れしてしまう。
「綺麗ですね。」
というと、ロジェさんは
「そうだね。」
と言った。カジェタノさんは愛おしそうに夕焼けを眺めている。先ほどは元の世界でやれていないことがあると思っていたけれど、こうやって夕焼けを眺める時間さえも私は元の世界にいた頃はもったいなく感じでいたと思う。こうやって、ぼーっとする時間さえも、勉強をしていなければ置いていかれるという罪悪感と焦りにせかされて、ずっと蔑ろにしていたのもだった。
夕焼けに照らされる海は宝石のように眩しかった。
ぼーっとしていた私の肩をカジェタノさんは軽く叩いて、甲板のところで小さくやっているお店を指差した。
「**?」
とカジェタノさんは私に聞いた。それにロジェさんが反応し、
「ジェラート、いる?」
と言った。
「……ジェラート。」
ワゴンのところには確かにジェラートのイラストと思わしきものが描かれていた。
(美味しそう……)
そう思って眺めていると、
「行こう。」
と言われ、手を引かれる。カジェタノさんも嬉しそうに、先導をした。ジェラートの店主はガッチリとした男の人でとてもジェラートを売っているような顔には見えなかったが、カジェタノさんは堂々と話しかける。
(あれ……?今、カジェタノさんが話している言葉、いつもロジェさんやカジェタノさんが会話するときに使っている言葉の発音と全然違う。)
カジェタノさんが話しかけた言葉に店主は驚いた顔をしながら、嬉しそうに会話を返した。同じ国の出身の人でだったのだろうか。
「rinn, roje, ****!」
と言われ、ロジェさんがその言葉を翻訳する。
「おまけに大盛りにするって。」
「大盛り……!」
そう言われ、私とロジェさんはジェラートを選んだ。
思った以上の大盛りに私はとても驚いた。片手に収まるコーンにジェラートがたっぷり詰まっている。甲板のテラス席のようなところにロジェさんと座ってジェラートを食べた。とても甘くて美味しい。普通のミルクのジェラートを選んだが、間違っていなかったようだ。とても濃厚で美味しい。
チラリと先ほどのワゴンのところを見ると、カジェタノさんはまだ店主と話しているようだった。ロジェさんは私の視線に気づいたのか、私に話しかけた。
「カジェの、同じ国の人、少ない、から、嬉しいと思う。」
と言った。そして、さらにいう。
「レチアノールも同じところ。」
「ディーヴさんも……。」
そのことを聞いて思い返し、初めて会った時のことを考える。あの初対面の距離のつめ方はその国出身の人にとっては当たり前なのかもしれないと思った。




