第七十六話『蒸気船』
蒸気船へはカジェタノさんがチケットを持っていたらしく、それを蒸気船の前にいるガードマンみたいな人にみせ、通してもらった。ガードマンというよりもどちらかというと軍隊のような人だった。その人は私たちを舐め回すように見た後、笑顔で
「**!」
と言って、私たちを通してくれた。船に上がる時にもかなりの段差があり、ロジェさんに助けてもらいながら船に乗り込んだ。船内は豪華な装飾品が並んでいる。高級そうな赤いカーペットに、大きな広間にはシャンデリアがぶら下がっている。廊下にも綺麗な花瓶と花が並んでおり、絵も飾ってあった。
(本当にここであっているのかな……?)
と考えながら、ロジェさんやカジェタノさんの後をついていく。階段を上がり、カジェタノさんがチケットを見ながら、部屋の位置を確認していた。そして、丸い窓のついた部屋を指差し
「**!***!」
と言いながら、扉を開けた。部屋は先ほどの豪華な感じとは打って変わって、質素な部屋であった。二段ベットが左右についており、カーテンで個室のようになるタイプのものだった。ただ、寝るだけの部屋という感じなのだろうか。部屋からは果てしない海と甲板の様子がよく見えた。いい部屋だなと思う。
荷物を置いて、ロジェさんとカジェタノさんは何かを話しているようだった。私はその様子に首を傾げた。そして、私の方を見てロジェさんが
「リン。服を新しく、する。バルレッドは服が、大事。それに……そこまで、寒くない。」
と言った。今の服を眺めてみると、完全に雪国から来ましたと言わんばかりの厚手の服だった。それに、出た時からずっと着ているので、服が若干ほつれている部分がある。
(ディーヴさんからもらった服なのに……。)
ディーヴさんからもらった服でお気に入りの服だ。新しくするということは捨てるのだろうか。
「でも、これはディーヴさんからもらったので……捨てれないです。」
そういうと、ロジェさんは、
「捨てる、は違う。……バルレッドの時、に着る服。だから、モリ・ハルドでまた着る。から今は別のところに入れる。ごめん。服いるって言った、けど新しくする、って言って。」
と言った。それなら安心だ。
「いえ、そんな、ありがとうございます。」
その言葉を聞いて、ロジェさんは少しホッとしたようにうなづき、カジェタノさんはその言葉とやりとりを聞いて、最初は困惑していたが、温かい雰囲気になったので、笑顔でうなづいた。
その瞬間汽笛が鳴った。ゆっくりと船が動き出す。揺れてしまい、少し倒れそうになったが、ロジェさんがすぐに倒れるのを防ぐように抱きしめてくれた。
(抱きしめられてる……!)
顔が真っ赤になったが、ロジェさんにバレないように
「……あ、ありがとう、ございます……。」
と言った。しかし、ロジェさんから何も返事が帰ってこない。ロジェさんの顔を覗き込むと、ロジェさんは、なんともなさそうな顔で
「どういたしまして。」
と言った。そして、
「行こう!」
と言って、ロジェさんが先導をする。急いでついて行こうとしたが、カジェタノさんが私の肩を軽くつついた。カジェタノさんの方を振り返ると、カジェタノさんは見てみなよと言わんばかりにニヤニヤしながら、ロジェさんの頭の方を指差した。
(耳真っ赤……。)
そのことに私も顔が真っ赤になる。カジェタノさんは私たちをからかって楽しんでいるんだろうか。カジェタノさんを見てみると、先ほどニヤニヤしていた人物とは別人のように私の方を真剣に見ていた。そしてカジェタノさんが
「rinn, **、****roje****。」
と言って、私の頭を撫でた。なんと言ったのかは分からないが、真剣にロジェさんに関する何かを言われたことだけはわかる。撫でた手から伝わっていたのは、拒絶などではなく、受け入れたような温かさを感じた。ロジェさんのことを心配していたことだけはわかる。
(本当に親友なんだ……。)
カジェタノさんが家にきた時からそうだとは分かっていたが、ここまで思ってくれる人がいるという事実が少し羨ましいと思ってしまう。それでいて、ロジェさんは本当に人望に厚い人間なのだと思った。
ロジェさんはついてこない私たちを疑問に思ったのか、振り返る。カジェタノさんが私の頭を撫でているのを見て、ロジェさんはこっちの方へと戻ってきた。
「リン、どうしたの?」
と言った。
「えっと、カジェタノさんと話してました。」
「rinn, **caje!」
「あ、えっと、カジェさんと……。」
「呼ばないでも、大丈夫。」
とロジェさんは言った。カジェタノさんと話していたというところでロジェさんは少し首を傾げた。言葉でなくても通じるものがあるのだと、カジェタノさんを見ながら思い、ロジェさんを見ながら、言葉でつながることをもあるとも思った。




