第七十五話『海』
朝、目が覚める。ロジェさんはゆっくり寝れたのだろうかと横を見ると思ったよりの近い距離に顔があってびっくりして、さらに昨日言ったことを思い出して、顔が真っ赤になる。
(ロジェさんの隣にいるって約束したけど、それって、告白超えてプロポーズなのでは……!?付き合っているわけでもないのに、そんなこと言うなんてだいぶおかしいのでは?)
そんなことを悶々と考えていると、どこからか小さな笑い声がして、そちらの方を見るとカジェタノさんが笑っていた。その様子を見られていたことに対してさらに恥ずかしくなって顔が真っ赤になる。そんな様子を見てカジェタノさんはさらに笑った。
ロジェさんがモゾモゾと体を動かし始める。起きるのではないかと思い、ロジェさんの方を見ると、ロジェさんはぱちっと目を開けた。その目を思わず見つめ合う形になってしまった。ロジェさんはそのことに少し驚いている様子を見せたが、その後すぐに私から少し距離をとった。離れてくれたことにホッとする一方で、離れてしまった体温が少し寂しい。
しかし、ロジェさんがこちらを向いて、笑顔で
「おはよう。」
と言った。私はそれに笑顔で、
「おはようございます!」
と返す。昨日の話でロジェさんは少し調子を取り戻したようだった。カジェタノさんも、ロジェさんに
「**!」
と言ってロジェさんもそれに同じように
「**。」
と言って返した。緑の色がいきなり減ったような感じがして、窓の外を見る。また大都市のようなところについたようで、大きな建物がいくつも並んでいる。ロジェさんはそんな窓の様子を見て、
「そろそろ。」
と言って、席を立ち上に置いてあるトランクを下ろした。私の分とロジェさんの分、そしてカジェタノさんの分。そして、着ていた上着まで取ってくれた。いくらトランクが置いてあるところまで背が届かないからと言ってもっとやれることがあったのではないか。上着もロジェさん側にあるからと言って何も違うのは違うのではないかと頭の中が罪悪感に包まれた。
「何から何まで、ありがとうございます!……何にもしてなくてすいません。」
「大丈夫。リン、私がしたい、だけ。」
とロジェさんはそう言った。ロジェさんが私に一緒にいてほしいと言ったけれど、私が対等な関係になれているのかどうか心配になる。ただ、ロジェさんが回復したのに私がクヨクヨしても仕方ないだろう。ロジェさんに
「ありがとうございます!」
と返すと、ロジェさんは不思議な顔をして、
「……ありがとう?」
と私に返した。
蒸気機関車が止まり、蒸気機関車から降りる。降りる時にはロジェさんが手を差し出してくれたため、スムーズに降りることができた。駅を降り、駅のホームを眺める。乗った駅は白色の壁が多かったが、どちらかというとこちらの駅はレンガでできているようで、温かみのある駅であった。駅のベンチには新聞を読んでいる人々がたくさんいた。
ベンチには、先ほどの貴族のような人が多くいるような気がするが、どちらかと言うと資本家のようにスーツを着ているが、サラリーマンとはどこか一線を画しているような人たちも多くいた。なんだか先ほどよりも時代が大きく進んだような感じがして、蒸気機関車はタイムマシーンだったのではないかと錯覚する。
「こんなにさっきと違うんですね。」
とロジェさんに話すと、
「ここは、進んでいるから。」
と話した。国が違うとここまで違うのだろうかとも思った。
人混みに紛れながら外に出ると、大きな坂道が続いていて、その向こうに綺麗な海の景色が広がった。太陽の光を浴び、海の表面が輝いて見える。カジェタノさんが私の前に歩いて出てきた。カジェタノさんは息を大きく吸って、何か愛しいものを見るかのように海を眺めていた。
(海に何か特別な思い出があるのかな……?)
そんなことを思いながらカジェタノさんを眺めた。ロジェさんもカジェタノさんを急かすことなく、その場でカジェタノさんを見ていた。何か知っているようだった。カジェタノさんはしばらく海を眺めた後、私とロジェさんの方を振り返り、
「**、rinn,roje!」
と先ほどの顔からは考えられないほどの笑顔を浮かべて、私たちに早く行くよと急かすように、後ろに来て背中を軽く押した。そこからしばらく歩くと、大きな港に止まっている船があった。あれも蒸気機関で動いているのだろう。上には大きな煙突があった。
(蒸気船だ!)
またテンションが上がりそうになる。ロジェさんとカジェタノさんはそんな私を見て、これもかみたいな感じで、顔を見合わせていた。そして何かを話している。
「あの、待たせてごめんなさい!大丈夫ですから!」
とロジェさんとカジェタノさんに言った。もしかしなくても、いちいちテンションが上がっている私が迷惑をかけているのではないかと思ったが、ロジェさんとカジェタノさんはさらに顔を見合わせて笑った。困惑していると、ロジェさんが説明をしてくれた。
「リンが、初めて見る、乗り物、多い、から。リンの、ところだと、どの、乗り物が多いか、話していた。」
それもそのはずなのかもしれない。蒸気機関車や蒸気船ができたばっかりのものなのだとしたら、未来の乗り物など想像できるだろうか。空を飛ぶ乗り物みたいな構想はあるのかもしれないが、それを実際に想像するのはかなり難しいだろうし、できたばかり以上のものがそもそもあるのかという問題もあるのだろう。未来まで使われるだろうと思っているのかもしれない。
スマホの後の同じような機器を想像できるのかと言われれば、難しい。空中にホログラムで画面を表示するのだろうか。スマホは未来で使われていてもおかしくない気もするが、その先にどのような進化があるのかうまく想像できない。
(やっぱり、発明家はすごいんだな。)
などと当たり前な考えに至ってしまった。
「じゃあ、行こう。バルレッドへ。」
とロジェさんが言った。その言葉に私は笑顔で
「はい!」
と返した。バルレッドはどんなところなのだろうかと期待に胸を膨らませて、船に乗った。




