第七十四話『本音』
夜、まだ朝日は登っていないにもかかわらず、ゆっくりと目が覚めるような感覚に襲われた。まだ眠いが、何故か起きてしまった。ゆっくりと目を開ける。目の前にいるカジェタノさんはぐっすりと眠っているようだった。私は頭を誰かに預けているようだった。その寄りかかっている方を見ると、ロジェさんだった。その瞬間、頭から眠気が一気にひき、いつもの調子に戻る。ロジェさんは私の方を見た。寄りかかっているという事実に頭がフリーズしたが、流石にロジェさんにずっと頭を預けるわけにもいかないと思い、
「すみません、すぐにどきます。」
そうカジェタノさんを起こさないように小声で言うと、ロジェさんは首を振った。何に対して首を振っているのか分からない。ロジェさんはとても不安そうな顔をしている。
「退かなくて、いい。だから、リン、そのまま。」
と言って、ロジェさんと少し距離を空けようとした私の肩を抱き寄せた。その行動にとても戸惑ってしまう。ロジェさんがこんな行動をとったことがない。
「あの、ロジェさん……?」
「何?」
ロジェさんに困惑した表情で話しかけると、ロジェさんは真剣な声色で答えた。
(そういえば、ロジェさんはどうして私が起きた時に起きてたんだろう……?)
そんなことを考えていると、一つの嫌な正解に辿り着くような感覚がした。
「ロジェさん、寝れないんですか?」
そう聞くと、ロジェさんは図星だという顔をして、私に言った。
「そう、寝れない。」
「それは、その、どうしてですか?」
そう聞くと、ロジェさんは不安そうな顔をしたまま答えた。
「リンが、いなくなる、が怖い。」
怖い。そんな単語をロジェさんから聞いたのは初めてだった。でも、なんで私がいなくなるのが怖いのかが理解できない。それと寝ないことには何か理由があるのだろうか。そんなことを考えていると、今日の夕方ごろの会話を思い出した。
「寝て、こっちに来た話をしたからですか……?」
ロジェさんに聞くと、ゆっくりとうなづいた。そうして、ロジェさんは私の手をゆっくりと掴んだ。その行動にさらに困惑を隠せない。しかし、触ってくれているこの行為が私には嬉しいのかもしれない。ロジェさんが怖いと言っているのに、嬉しいなんて考えてしまってはダメだと思いながら、頭の中から煩悩をかき消そうとした。ロジェさんはゆっくりと口を開いた。
「リンが、ここに、きた、時。私は、元の世界に帰る、ことを、手伝う、って言った。でも、今は嫌。」
そう言って、ロジェさんは優しいが、私の手を握る手の力が少し強くなった。
「私は、リンと出会って、たくさん、いいことが、あった。嬉しかった。だから、この手を、握りたい。……一緒にいたい。だから怖い。リンが、いなくなる、こと。」
そう言って、ロジェさんはさらに暗い表情をする。ロジェさんが私の方へと顔を寄せた。少し抱き合うような形になり緊張するが、ロジェさんのいうことがなんとなく分かった気がした。そして、私自身が必要とされていることもとても嬉しく感じた。
(ロジェさんが、そんなこと思っていたなんて……。)
今日初めて知った。ロジェさんが、こんなに私と一緒にいたいと思っていてくれていたこと。どうして、私の心がロジェさんの言葉を欲しているのかが分からなかった。
(こんなに嬉しいと感じるなんて……。)
今まで、私が誰かから必要とされた時は、何故か悪意を感じていた。私の考えが捻くれていたせいもあるのかもしれない。でも、何故かロジェさんの言葉はそんなフィルターさえも通り越して直接心に響くものだった。
私はロジェさんの顔を見る。なぜ、ロジェさんが捨てられる子犬のように悲しい顔をしているのだろう。私の方が捨てられるかもと思っていたのに。
そんなロジェさんの顔を優しく触ると、ロジェさんはこちらの目を捉えた。
「どこにも行きませんよ。ロジェさんの隣にいるって約束します!」
そう胸を張って答えるとロジェさんはゆっくりと微笑んでから、
「ありがとう、リン。」
と言った。そして、私は言う。
「どこにも行きません。だから安心して眠ってください。」
そういうと、ロジェさんはゆっくりと頷いた。ロジェさんに私が体を預けると、ロジェさんも私に少しだけ体を預けた。ロジェさんが琴線が切れたかのように眠ると、私も次第に睡魔に襲われて、ゆっくりと眠りに落ちてしまった。
朝、一番最初に目が覚めたのは、カジェタノだった。カジェタノは目を開けると、そこには体をお互いに預けて眠る、凛とカジェタノの姿があった。カジェタノはその姿に少し安心して息を吐いた後、二人をじっと眺めていた。
(<心配していたけど、大丈夫そうだね。>)
二人の姿を見て、カジェタノは二人の幸せ、そして親友の幸せを願うのだった。




